平成30年1月27日
「本邦におけるGERD診療ー傾向と対策ー」
奈良県立医科大学 中央内視鏡部 病院教授 山尾 純一先生
 本邦は高齢化の一途を辿っている。そのため逆流性食道炎の原因薬として有名なCa拮抗剤や亜硝酸製剤等の投与頻度が増えている。また従来から、抗菌薬による薬剤性食道炎の存在は認識されてきたが、高齢化を反映して、NSAID、ビスフォスフォネート、DOAC(direct oral anticoagulants)なかでもダビガトランによる薬剤性食道炎の報告例が増加している。さらに日本における食習慣の欧米化に伴う肥満者(特に男性)の増加や、ヘリコバクター感染率の低下等と相まってGERD罹患者が増加している。一方、GERDの病態解明も進んでいる。すなわち、GERDのリスク因子とされてきた食道裂孔ヘルニアが胸焼けを発症させる機序や、胸焼けの発症に免疫が関与している事実などが明らかとなった。また、NERDの病態に関する理解も深まってきており、NERDとの鑑別が困難である機能性胸やけやアカラシア、さらに好酸球性食道炎等の疾患に対する診断法も確立されつつある。治療に関しては、PPIが第一選択であることに変わりはないが、PPIの特に長期連用に関連した副作用に関心が集まっている。中でも、腸内細菌叢の変化は不可避と考えられるが、具体的な影響の度合いは不明である。また、現在話題の中心となっている腎障害や痴呆に対する影響も限定的と思われる。むしろPPIの長期連用に際して重要なのは、個々のリスクに徒に捉われることではない。第一に不必要なPPIの長期連用を行わないことが肝要である。
 次に減量や投与頻度の軽減が可能か否かを検証する姿勢を忘れず、リスクを下げる姿勢を忘れてはならない。その上で、長期連用がリスクを上回るベネフィットを患者にもたらしていることを確認出来ているならば、投与を中止してはならないと考える。

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