平成30年2月24日
「食と腎臓病ー果糖とチョコレートー」
奈良県立医科大学 未来基礎医学教室 教授 仲川 孝彦先生
 わが国における食の歴史、たとえば脚気は玄米から白米を食べる習慣が広まった江戸時代に流行、特に元禄時代(一六五〇年代)に生活水準が高い上層武家に多く発症したとされる。
 医師の井原らは食生活に問題あり、白米から蕎麦や麦を食べることにより防止できるとされた。明治に入って一八七〇年ころから庶民層にも流行し、明治末までの脚気死亡者数は六五〇〇人〜一五〇〇〇人(一九〇〇年)までになり、大正時代には結核と並び二大国民病とされた。明治十五年海軍練習艦【龍驤】で約十か月訓練航海時三八〇名の乗組員中一八〇名が脚気になり約二〇名が死亡した。これを重く見た海軍軍医の高木兼寛らは、原因の和食(白米)に問題あるのでは?明治十七年に海軍練習艦【筑波】で約十か月の航海時の食事を洋食で実施したところ脚気が発症しなかったことから原因は米食ではないかと推測され、のちにビタミンB?が欠乏していることが判明した。このことから?食と病気?は切り離せない「人は食べたもののようになる」のではないか。アメリカのシェーンハイマーのラットを用いた実験によれば、食べたものによってからだは少しずつ新しいものに変化していく。我々のからだも数か月前とは全く違ったものになっている(Dynamic state‥動的平衡)
 現在、我々は色々な加工食品から知らず知らずのうちに食品添加物を摂取しています。なかでも最も注目すべきものとしては果糖です。果糖は市販されている食品と原料ケチャップ等とか色んな食材としてほとんどに入っております。この果糖が体内に入ると尿細管がダメージを受けてその結果尿酸が産生される。そこで、果糖由来の尿酸が身体にどのような影響を与えているかを調べるために、我々はラットに果糖(フルクトース)を投与した。結果、果糖により尿細管がダメージを受けて、高血圧・インスリン抵抗性・高中性脂肪血症は発症し、その代謝副産物である尿酸が生成されたが、興味深いことに尿酸産生抑制剤であるキサンチンオキシダーゼ阻害剤を併用すると血圧が低下し、中性脂肪と高インスリン血症も改善されたと云う結果が得られた。したがって果糖摂取による様々な代謝異常は、その代謝過程で産生される尿酸により引き起こされている事が明らかになりました。
 最近、アメリカでは果糖の使用が社会的問題化されてきておりボストンの公共施設では果糖入りのソフトドリンク自販機が禁止されたり、アメリカ政府は公的学校の自販機からソーダを取り除くことを提唱している。日本に於いても我々の研究が注目された。「NHKのためしてガッテン」への出演や新聞記事などでも研究成果が紹介された。近年ではチョコレートの摂取も増加しつつある。特にパナマのカリブ海沖に住むKuna Indians(クナ族)では食生活の中で、カカオを大量摂取する事で加齢によるeGFRの低下を予防しているとの報告が出ている。チョコレートの原料であるカカオに含まれるエピカテキンが高い抗酸化作用によりインスリン抵抗性や血圧を下げるといわれている。これらのことによりカカオは?The Drink of god?と言われている。
 果糖は元来自然界に存在するものなので安全だと思われがちだが、過剰摂取により健康被害が生じる可能性がある。果糖(フルクトース)や尿酸に着目することで腎臓病などの健康被害が軽減できるかもしれない。

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