平成31年3月2日
「認知症と睡眠障害」
天理よろづ相談所病院 白川分院 精神神経科 部長 橋本 和典先生
  認知症患者では高頻度で睡眠障害が見られる。例えばレビー小体型認知症では八九%、アルツハイマー型認知症では六四%で何らかの睡眠障害が認められたという報告がある。レビー小体型認知症では早期から昼夜のリズムの乱れる傾向がある。さらにREM睡眠行動異常、レストレスレッグス症候群といった睡眠障害も見られる。アルツハイマー型認知症では中期に睡眠障害が最も目立ち、睡眠障害が不安、脱抑制、異常行動などのBPSDの出現に強く関連している。
 高齢者における睡眠障害の影響として、心血管系リスクの上昇、高血圧の発症、耐糖能の低下、抑うつ症状の惹起に関連するとの報告があるが、認知機能低下や認知症発症への影響はどうだろうか。Tsapanouらの報告では睡眠不足と認知症発症との関連が示されている。また、アルツハイマー型認知症ではその機序として、睡眠障害によりAβのクリアランスが低下することでAβの増加、沈着が生じ、アルツハイマー型認知症のリスクが高まると考えられている。
 また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が認知機能に与える影響についての研究も多数報告されている。Billioti de Gageらのベンゾジアゼピン系睡眠薬服用と認知症リスクの関連についての10の研究をレビューした報告では、服用により一・五から二倍程度高まるという結果であった。しかし、Grayらの報告では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用量が低用量、中等量の時は認知症発現リスクの上昇が見られたが、高用量では上昇しないことが示された。また、Imfeldらの報告では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が認知症発症の前駆期に使用されたとき、そのリスクが上昇する傾向が示され、認知症発症の前駆期に出現する睡眠障害に対して、睡眠薬を使用していることが、認知症発症に睡眠薬が関連しているように捉えられる可能性が考えられた。この様にベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用による認知症リスクの上昇については明確な結論は出ていない。
 睡眠障害の治療にはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などの薬物治療と睡眠習慣の見直しなどの非薬物的なアプローチがある。それぞれをバランスよく組み合わせた出口を見据えた不眠治療が必要である。

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