HIVウィルス発見者の仏国モンタニエ博士と米国ギャロ博士が今年のノーベル医学賞に輝きました。そこで今月はエイズの話題を取り上げます。
八月二十八日付けで、日本医師会感染症危機管理対策室からエイズの最近の患者情報が送付されてきました。今回(平成二十年三月三十一日から六月二十九日まで)のエイズ動向委員会長のコメントでは、「新規HIV感染者報告数は二七六件で過去二位。新規エイズ患者報告数は一〇九件で過去四位。うち男性一○三件、女性六件で、前回より男性は増加、女性は減少」とのことでした。いずれにしても最近増加傾向のあると思われます。添付された資料によれば、感染者は全国二七六件のうち、東京一〇九件、大阪三七件、奈良一件でした。特に献血者の中に見られるHIV抗体・核酸増幅検査陽性者の比率が、一〇万件当たりで一九八七年〇・一三四件であるのに対し、一九八七年〇・九〇〇、二〇〇七年二・〇六五件と確実に増加しています。これは感染していることを知らないか、知っていても隠している人たちが増えていることを意味するので重大です。
さて、九月六日第五回奈良県感染症診療フォーラムが開かれ、国立国際医療センターの岡 慎一先生の講演を聞きました。以下はその概要です。
要点は、出来るだけ検査をしましょう。エイズの予後が圧倒的に良くなり、予防も可能になってきたことです。まず、予後について、デンマークの昨年のデータを見ます。九六年以前有効な治療法のなかった時、余命は六、七年と言われていました。ところが二〇〇〇年以降は余命四〇年にまで伸び、一般の人々と比較して、二〇年の差にまで縮まっています。現在は第二世代の治療薬が使われ、組み合わせて強力な効果を発揮します。これをHAART(highly active antiretroviral therapy)と呼びます。HIVに対する薬剤には幾つかのクラスがあり、(1)核酸系逆転写酵素阻害剤、(2)非核酸系逆転写酵素阻害剤、(3)プロテアーゼ阻害剤があります。この内クラス1の二種類と、他のクラスを一種類加えて三者併用をするのが基本のようです。このような治療を基に、母子感染予防、針刺し事故の予防を検討した研究では、予防効果は極めて顕著であったとのことです。特に針刺し事故については、この治療が導入されて以来感染例はないとのことでした。また感染した患者を治療してウィルス量の抑制すると、性交渉での感染を予防することが可能で。一〇コピー以内に抑えると、一〇〇回性交渉で〇・〇数%と低下するそうです。さらに性交渉後に相手が感染者であると分かったとき、その予防が可能になるだろうと言われます。ただし七二時間以内に投与しなければなりません。またその際肝炎の合併や、腎機能、妊娠の有無などをチェックします。
エイズの治療効果は現在では九〇%以上がうまくいき、第二世代では薬剤服用量も減らすことが出来てきたようです。ただし、耐性ウィルスの出現、ズーッと薬を飲む飲み疲れなどが問題となっています。多剤耐性ウィルスも出現しています。さらに慢性毒性が問題になります。そのうち、ミトコンドリア障害のリスクがあり、遺伝多型による特別なグループに注意を払う必要があります。ミトコンドリア障害では、重篤なギランバレー様症状、進行性の肝硬変などがあります。またCD4がかなり改善したところで休薬できないかについて検討したSMART 試験では、六〇〇〇人を対象に五年間でフォローを始めたところ、二年目で結果が明らかとなり中止。薬剤は決して中断してはならないと結論されました。結局、エイズでは死ななくても良くなってきたが、薬は一生飲み続ける必要があるとのことでした。勉強不足で考え違いをしている所もあるかも知れませんのでご容赦ください。
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