衆議院選挙を前にして各政党候補から医療に対する政見が表明されつつあります。まだ本格的なものではないようで慎重に対応しなければなりませんが、現時点で出されている自民党と民主党の主張を比べてみました。
1 後期高齢者医療制度について
(自)長寿医療制度の五年後見直し規定を前倒しして、より良い制度に改善する。負担のルールを明確にしている点は維持したい。(民)廃止する。(医)制度自体は維持するが、他保険から支援金として4割を負担してもらっているのを止めて、医療費の九割に公費を投入する。
2 社会保障費の財源確保について
(自)直間比率是正も含めた税制抜本的改革の議論の中で明らかになるが、特別会計剰余金の一部活用や、国会議員定数減、行政改革でも安定的財源は確保できる。(民)行政経費の節減、特別会計の原則廃止、国家公務員の総人件費の節減、所得税などの税制見直しで十五兆余の財源を捻出。(医)高齢者医療は保障の概念で支えるべきとの考えに立ち、高齢者医療費の九割を公費でまかなう。激変を避けるため公費の段階的引き上げをする。公費はすべて後期高齢者医療に集中配分する。それ以外の一般医療保険は公費を入れず保険原理での運営とする。
3 保険者機能強化について
(自)保険者が保健指導や特定健診など、生活習慣病対策に主体的に取り組む事は、財政基盤強化に不可欠。(民)基本的には賛成。但し、基準や権限を共通化出来る様な仕組み、制度にする必要がある。(医)強化には反対(?)。
4 医師不足
(自)医師臨床研修制度をもう一度見直し、医師の偏在を改める。また、医師、看護師不足を補うため、大学入学定員などを見直す。(民)最も大きな問題は新医師臨床研修制度と考えます。この制度により医師の偏在が助長され、地域間格差を増大したのは明らかです。全国に医師が供給できるシステム作りをすべきです。(医)医師絶対数の不足、医師臨床研修制度による偏在、医療過誤訴訟のリスク、厳しい医療費削減などが原因としてあげられるが、精細な分析に基づく原因の究明を日医はしていないのではないか。
こうして比べてきたとき、まず自民党と民主党で意見の大きな差異はないことが分かります。また医師会にも諸問題に対し明確な解決策を見いだせていない、あるいは医師会全体のコンセンサスが得られていない現状が読み取れます。核心的な問題は医療を国の施策立案においてどのような位置に置くかと言うことです。この七、八年の間日本を動かしてきた経済財政諮問会議のように医療を一産業として捉え、市場原理に置けば良い方向にいくと考えるのは間違っていることが次第に明らかになってきました。医療は本来公的ないわば共通社会資本であるという考えに立って、すべての施策を進めていかねばなりません。これが根本問題です。自民も民主もこの点では、いずれも程度の差はあれ経済性を優先して、市場原理にゆだねるべきと考えているように思えます。その最も象徴的なのが医師不足に対する認識です。現在の医師不足は医師の偏在であるという認識です。これは明らかに誤った認識であると思います。医師の絶対数が不足しているという事実をなぜ認めないのか。利益を生まない医療産業は浪費ばかりで、なるべく規模は縮小した最低必要状態で維持しようという思いがあるのではないでしょうか。いわゆる医療亡国論です。医師数が増えれば医療費も増えるという短絡的な発想で、一九九七年に医学部定員削減の閣議決定がなされました。しかし、その後急速な高齢化で患者数は増加し相対的に医師数が圧倒的に不足しているのです。健全な社会の存続を支える、いわば社会安全保障の重要な柱として医療を捉え、経済性を犠牲にしても維持していくべき共通社会資本であると考えねばなりません。ただこれが行きすぎると、公的介入が強大となり医師の公的管理の圧力が増すことは忘れてはなりません。これを我々医師がどの程度まで許容するかが今後の大きな問題となります。私たちがどのような方向を目指すのか、まず日医としての基本的構想があってしかるべきと考えます。
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