平成20年5月 | ![]() |
後期高齢者医療制度について | |
すでに国民的関心の的となっているこの制度を大ざっぱに考えてみたい。平成十八年に第一六四回国会で健康保険法等を一部改正する法律が成立した。ここで平成二十年度から実施されるべく後期高齢者医療制度が創設された。保険財政の維持のため新しい保険制度が導入され、保険料の納付義務、年金からの徴収、広域保険組合の新設などの改正がなされた。これが本制度の主要な目的であるが、ここでは我々に直接関係する診療内容に限って考えたい。法律成立に当たり適切な医療の確保に関する特別部会が設置され、ほぼ一年をかけて検討がなされた。その要点は下記の通りである。 1 後期高齢者の心身特性について (1) 老化に伴う生理機能の低下により、治療の長期化、複数疾患への罹患が見られる。 (2) 多くの高齢者に、症状の軽重は別として、認知症の問題が見られる。 (3) 新制度の被保険者である後期高齢者は、この制度の中でいずれ避けることの出来ない死を迎えることになる。 2 後期高齢者にふさわしい医療の体系 この特性をふまえ、後期高齢者医療に特に考えるべき要点として以下のものがあげられた。 (1) 急性期入院であっても、治療後の生活を見越した高齢者の評価とマネ-ジメントが必要 (2) 在宅を重視した医療 訪問診療などの提供、総合的に診る医師、地域における医療連携 (3) 介護サービスなどとの連携 (4) 安らかな終末期を迎えるための医療 以上の基本点の中で、総合医と終末期医療が最も問題となる。総合医は診療報酬で規定され、一人の主治医が総合的に診療するため、他の内科医の診療は従来通りには評価されない。内科医が技術料として得ていた慢性疾患指導料を主治医以外の併診内科医は請求できなくなる。これは内科医の専門性を無視する暴挙で容認できるものではない。さらに終末期医療を制度として一定の方向に誘導する意図があると危惧する。死に至る病気を持つ高齢者に自由な意志決定を保障しているかのようで、実は尊厳と称して選択の幅を縮め、疾患の如何によらず積極的治療を避ける方向に向かわせる様にみえる。 最近の日医の報告では、都道府県医師会十一カ所と、都市区医師会六一カ所の併せて七二医師会が後期高齢者診療料を算定しないよう会員に呼びかけている。奈良県医師会の方針はまだ定まっていないようである。天理地区医師会でも早急に議論を進めて態度を決めたいと思います。 報道番組などの議論を聞いていますと、保険財政問題に批判が集中しています。一方この制度の医療姿勢に関する批判は、国民を十分納得させるものではないことが気がかりです。高齢者を特性と称して七五歳で線引きして、終末期医療を柱のひとつに据えることは、どうみても医学的な合理性がありません。有るとすればひとえに経済的合理性であろうと思います。日医はもっと専門集団として医学的合理性を中心に強く批判すべきであると考えますが如何でしょうか。 |
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