平成20年8月

「微量採血穿刺器具の取扱いについて」

六月二十四日に日本医師会から出された、看護師養成所等における微量採血のための穿刺器具の取り扱いにかかる周知徹底及び調査の実施についてという依頼文書を紹介し解説したい。それまでの経緯を簡単に振り返ると、まず、

   平成二十年四月三十日島根県の診療所で複数患者に使用しないことが明

   示されている採血用穿刺器具を複数患者に使用した旨の報告あり。

   五月二十三日島根県の調査で県内医療機関における同様の事例が判明

   五月二十四日厚生労働省から島根県の調査について通知と、業者に対し

   て器具の適正使用を医療機関に指導するよう依頼。

   五月二十七日全国医療機関における微量採血のための穿刺器具(針周辺

部分がディスポーザルでないもの)の取り扱いに関する実態調査案を発表。

   器具の具体名を列挙して表に明示。

   六月五日調査に対し、県医師会塩見会長から回答留保の指示。

   六月二十六日回答留保の文章で、医師会が厚労省と交渉中と表明。

   六月二十七日回答留保を県医師会長名で解除。

という経緯です。なお六月十二日付けで厚労省から厚生局に発出された、看護師養成所などにおける穿刺器具の取り扱いにかかる調査実施の文書では、

(1)針を交換せず複数人に使用すること、(2)針を交換したが複数人への使用が禁止されている穿刺器具を複数人に使用することが調査の対象となる。後日結果は公表されると書かれている。現在当県においても調査が進行中である。

既にまとめられている医療機関における香川県の調査では、九七病院で、針を交換せず使用したものなし。八四三診療所でも針を交換せず使用した報告はやはり皆無であった。島根県の事件は医学的常識から考えてきわめて特殊な例で、通常では考えられないことである。

ここで最大の混乱は真空採血管ホルダーの件である。本来この器具は医療従事者の針刺し事故を防止する優れた方法として開発された。しかし十七年に厚生労働省から出された指導が正確に理解されず拡大報道された結果、混乱が生じたと考えられる。厚生労働省医薬食品局安全対策課から都道府県衛生部会長宛に発出された、平成十七年一月四日付薬食安第〇一〇四〇〇一号通知に関して、六月二十六日日本医師会から以下のようなQ&Aが示された。

質問 

平成十七年の通知により、真空採血管のホルダーの添付文書の「禁忌・禁止」欄に再使用禁止と記載するよう企業に指導しているが、その根拠はなにか。

回答

平成十七年の通知以前においては、真空採血管のホルダーは、医療機器ではなく、また、「再使用禁止」とはなっていなかったが、このようなホルダーの再使用による感染等の事例の報告は国内外ともに承知していない。

このような状況下、平成十六年七月に日本臨床検査標準協議会が標準採血法を策定し、採血の手技の面から、より安全性の高い手技が導入されるようになったことも踏まえ、平成十七年の通知により、器具の面からもより安全性を向上させるために、企業が自主的にホルダーを単回使用の医療機器とする場合には、その添付文書の「禁忌・禁止」欄に再使用禁止の旨記載するよう企業に対し指導したものである。

このように、平成十七年の通知は、ホルダーの再使用による感染等の健康被害の発生等を踏まえて発出されたものではなく、また、真空採血管のホルダーを一律に単回使用の医療機器とすることを求めたものでもない。

以上から採血管ホルダーの取り扱いについては、感染防止の観点から単回使用とすべきとの指導ではないことが明らかである。この意味で当面問題となっている調査の対象とならない筈である。ホルダーの構造を知っている私たちには、感染の可能性はほとんどないと思われる。しかし全くないかと現実の医療の現場で問われれば、一〇〇%と言い切れるものではない。最近の食品の賞味期限に対するヒステリックな報道をみても、確率論に立っている現在の医療行為の難しさを理解できそうにない。今後はホルダーを再使用はしないこととするものの、少なくとも同一の針を複数患者に使用するという非常識な事件とは明確に峻別して対処すべきである。さらに報道の趨勢によってはとんでもない方向に向かう可能性も否定できないので十分注視していく必要がある。



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