平成二十一年二月五日に県医主催の感染症対策医師研究会があり、新型インフルエンザについて国立感染症研究所より森兼氏、奈良県より松山氏が来られ、講演されましたので内容について報告させていただきます。
インフルエンザには三種類ある。ひとつは毎年ヒトの間で流行しているインフルエンザ、二つめは鳥インフルエンザで鳥類のインフルエンザ、三つめは新型インフルエンザで動物(主として鳥)のインフルエンザがヒトに感染し、さらにヒトからヒトへ感染するようになり、世界的な流行を起こしえるものである。
現在、流行している鳥インフルエンザはH5N1型で鳥の肺や腸でウイルスが増殖。野生の渡り鳥では通常発症せず、感染しても健康なまま、渡りを行い、土着のニワトリ等に感染させる。
二〇〇八年十二月十六日現在、H5N1ヒト感染者は累計三九一人でそのうち二四七人が死亡。死亡率は六三%である。感染者数は二〇〇六年一一五名、二〇〇七年八八名、二〇〇八年四十名と減少傾向にある。
鳥インフルエンザのヒトへの直接感染があってもウイルスの遺伝子構造は鳥型であり、ヒトからヒトへは感染しにくいが遺伝子変異によりヒトからヒトに感染しやすくなり、ヒトと鳥の遺伝子の交雑(組み換えウイルスの出現)が起こり、新型インフルエンザの登場となる。
新型インフルエンザはヒトからヒトへ感染していることをいち早く把握することが大事であり、ヒトからヒトへ容易に感染が起こればもはや鳥インフルエンザではなく、新型インフルエンザであり、誰も免疫を持っていないので大流行(パンデミック)が起こりうる。すでにインドネシアで二〇〇六年五月に二回のヒトからヒトへの感染が疑われている。
一九一八年のスペインインフルエンザでは二〇〇〇〜四〇〇〇万人が死亡しており、第一波だけではなく、第二波、第三波の流行があり、その間数ヶ月間にウイルスがより強毒に変異している。死因の多くは細菌性の肺炎としており、新型インフルエンザウイルスによる因子と細菌性肺炎が合わさった時、重症になる。
新型インフルエンザが国内に入って来たらまず、患者を医療施設に隔離し、接触者にタミフルの予防投与を行う。拡大し始めたら学校の閉鎖、集会の制限、職場への出勤制限、感染者の自宅での隔離等の対策が挙げられるが社会、経済に対して大きなダメージがあり、また、自宅で隔離した場合、医療の提供が困難になる。
平成十七年に厚労省が医療体制に関するガイドラインを三段階に分けて発表した。
第一段階 新型インフルエンザがまだ県内で発生していない
第二段階 新型インフルエンザ患者が県内で発生し、入院を基本とした医療が提供される時期
第三段階 新型インフルエンザ患者が増加し、新型インフルエンザの医療を外来主体とする時期(入院勧告の中止)
新型インフルエンザが発生した場合、発熱外来をスタートさせ、疑われる患者をトリアージして感染症指定医療機関と一般医療機関に振り分ける。発熱外来は感染対策上、屋外のテント等、オープンな場所が良いが気象条件に左右されたり、医療関係者が働きにくいデメリットがある。
第三段階のまん延期になれば通常のインフルエンザ同様の飛沫感染対策が中心となる。また、発熱外来は患者のふるい分けから診療所としての役割が必要となり、タミフル等の処方を行う必要がある。
奈良県では発生初期には県立三病院の専門外来および県立医大感染症センタ―九床、奈良医療センタ―十四床の陰圧病床での入院体制が組まれている。奈良県ではタミフルは十一万八千人分が備蓄済みであり、発生時にはまず市場流通分で対応し、不足すれば県備蓄分、さらに国備蓄分で対応する。国は二〇〇八年度一三〇〇万人分のタミフルを購入する予算を確保したが各都道府県の備
蓄を加えても国民の約四〇%分しかない。
新型インフルエンザワクチンには二種類あり、ひとつは鳥インフルエンザウイルスで作ったプレパンデミックワクチン(事前に開発したワクチン)と新型インフルエンザウイルスで作ったパンデミックワクチン(新型インフルエンザ対応ワクチン)がある。
プレパンデミックワクチンはH5N1型インフルエンザウイルスを用いて製造し、二〇〇〇万人分をすでに備蓄してあり、今年はさらに一〇〇〇万人分を製造予定である。パンデミックワクチンは新型インフルエンザが発生してからでないとワクチンが製造出来ず、最低でも六ヶ月間を要し、最初の流行には間に合わない。個人で出来る新型インフルエンザ対策として毎年流行するインフルエンザ同様、流行がみられたら外出せず人混みに近付かない。マスクを使用する。また、他人との触を避け、自宅で一定期間生活するために食料、日用品の備蓄が必要になる。
新型インフルエンザはいつ発生するかわからない。発熱外来や入院病床等、診療体制の構築、安全なワクチンの開発や製造、十分なタミフル等の備蓄が急がれる。
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