平成22年11月 | ![]() |
「日医の真の存在理由」 | |
今回の新型インフルエンザ騒動で最大の禍根は八千万回分余りのワクチンが役に立つことなく廃棄され経費が浪費されることだ。その責任がどこにあるのか明確には言えないが、我が国のワクチン行政が長い間世界の大勢と解離してきたことが遠因であろう。第27回総会において三重病院名誉院長神谷齋先生の講演、「日本のワクチンを考える」で大きく立ち後れたワクチン行政の実体を改めて知った。ここで先生は厚労省の委員として行政に関わった経験をもとに、一個人や一学会がいくら改善を主張しても厚労省は聞く耳を持ってくれないとの感想を述べられた。複数の学会が意見をまとめて提言する必要性を強調されたのが印象的であった。 厚労省は医療行政を進める際に将来にわたって間違いのない方針、また医療者の大多数が望む大勢を見極めたいと望んでいるに違いない。ところが医師は本来一人天下で経験を重視するあまり意見を統一することに極めて不熱心である。学会間でも見解を統一することがはなはだ難しい。最も良い例と思われるのが異状死に関する医師法21条の解釈である。かつて病死以外はすべて異状死であるとする法医学会の見解が裁判を左右した。医学会のなかで外科学会など臨床分野の学会は異なる見解を示している。同じ医療者でありながら意見を統一することが出来ず、日本学術会議にその席を譲ってしまった。 さて日医の存在理由がどこにあるのか。政策を実現するために政治資金を提供するマシンとしてか、選挙の票をまとめる団体として有効なのか。現在の政治状況ではいずれでもない。どちらにしても中途半端で決定力に欠ける。日医の存在意義は医療に関する専門知識を正しく素早く提供することであると私は思う。国民も政府もこれを強く望んでいる。建前通りに日本医師会が我が国の医学会の頂点にある日本医学会を主催できれば、内部の意見調整をして医師全体の総意を国民に訴えることが可能である。ただし打算で意見調整をするのではなく、医学的真理に基づいて出来る限り正しい結論を導き出し国民に提示する機構を作り上げることが不可欠である。日医は我が国の医療情報分野で最高の権威を獲得することに力を傾注すべきである。 そうすることでワクチンギャップを埋めることも可能となる。だたし副作用の問題を真剣に論議し、現時点で分かっているデータをすべて公開し、副作用が避けがたいことをハッキリと明示し、国による補償体制を完備するようオープンな議論をするべきである。また防疫が国防の一部であるという認識を医療者自体が明確に持ち、経済性をこえた必須の施策が医療にはあることを宣言すべきである。これが日本の医師大多数の提言としてなされれば国民はきっと受け入れると信じる。 (日臨内ニュース八月号万華鏡から転載)
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