平成22年12月
「特定健診、特定保健指導」

山添村は県下一位の国保特定健診受診率(五二%)です。一方、受診率は頭打ちで、さらなる向上を期待しづらい現状です。集団形式で、平日の約二週間(若人四日、高齢者五日間)で国保特定健診を行っています。がん検診と同時実施しています。
 実施上の大きな問題点として、社会保険家族が制度の谷間に埋もれたことがあります。遠方に住む息子の扶養家族になっている場合、企業の指定医療機関へ出向いて受診するのは現実的でありません。一方で「息子が勤める企業」にとっては、少数の扶養家族が受診出来ない状況は、無視できるほどに小さな事象です。
 また、集団形式のがん検診を同時実施するに際して、社会保険家族の相当数が、がん検診から脱落しました。がん検診だけで受診なさる人はいますが、特定健診を受診できないためにがん検診まで未受診となった人も多いのです。
 特定健診、特定保健指導には多様な問題点があることが指摘されています。個人的には、実験的な政策を国全体の規模で推進したこと自体に、無理があるものと考えています。若干の項目追加程度の、小手先の対策で受診率が向上することはないでしょう。山添村の受診率五二%はさておき、個別申し込みの特定健診で天理市の二三%は批判の対象でなく、褒めてもよい実績だと思います。

 二年間の奈良県国保の実績データから、読み取れることを列記します。
・二十一年度の奈良県国保全体の受診率は二三・六%(二十年度二二・三%)であった。男性一八・九%、女性二五・一%であり、受診率には明らかな性差があった。
・六十五歳以上の高齢者の受診率二八・二%に助けられた面がある。より介入が必要な六十四歳以下では受診率一六・六%であった。特に四十歳代男性では受診率八・七%という惨状。
・メタボ判定率は一六・一%であった。男性二六・二%、女性九・六%と、性差が大きい。腹囲基準の違いが大きく影響したと思われる。
・積極的支援(判定アルゴリズムで六十四歳までに限定)に三・五%、動機付け支援に一一・四%が割り振られた。動機付け支援の対象者は八割弱が六十五歳以上であった。
・健診受診者中の三九・〇%が高血圧、脂質異常、糖尿病で医療機関受診中であった。特定健診の理念上は受診不要と思われる群である。四割が理念上の受診不要群であったという、驚くべき実績。
・前述三疾患で服薬中の健診受診者のうち、受診勧奨基準(管理不良群)が六六・九%にも達した。これは受診勧奨の基準が厳しいための可能性がある。この値を示されて「世の医者たちの仕事ぶり」を評価されるのは、率直なところ不本意な面がある。
・医療機関未受診者のうち、特定保健指導ではなく「受診勧奨」となったのが二六・一%に達する。健診受診して健康意識が比較的に高いと思われる医療機関未受診群にも、要医療者が相当数いる。
・特定健診の受診者中、「異常なし」はわずか一九・九%であった。
・健診受診率は市町村格差が大きい。集団健診を実施している自治体(山添村、曽爾村など)の受診率が高い。全般的には都市部が低調。
・受診率が一〇%未満の自治体もある。健康機会平等の観点から、問題かもしれない。
・特定保健指導の、対象者中の終了率は一〇・五%であった。高齢者を中心とした動機付け支援(終了率一一・九%)に助けられた部分があり、特定保健指導の中核とも言える積極的支援では終了率六・三%であった。
・具体的には積極的支援の対象者二一一二人中、初回面接できた者三五八人、支援終了者一三四人。この一三四人(動機付け支援の終了者を加えても八八七人)を得るために、県内二十五万人の国保住民へ案内し、五・九万人に健診を実施したことになる。国家的な健康介入システムとしては、非効率な印象。





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