急性呼吸器感染症 −SARSを考慮にいれて-
        奈良県立医科大学 呼吸器・感染症・血液内科
                    助教授 三笠 桂一
 呼吸器感染症には病態として急性感染症と慢性感染症がある。
急性感染症とは急性気管支炎、肺炎、そして慢性下気道感染症の急性憎悪が含まれ、慢性感染症とは慢性下気道感染症の安定期であり、それぞれ病態と治療方法が異なる。急性気管支炎はインフルエンザ桿菌や肺炎球菌が主な原因菌であり、多くは上気道ウイルス感染を契機に続発する細菌感染症として発症する。
肺炎には肺炎球菌が主体の細菌性肺炎とマイコプラズマ・ニューモニエが主体の非定型肺炎がある。慢性下気道感染症の急性憎悪は肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリスが原因菌の主な中心である。また、本年は重症急性呼吸器症候群(Sever acute respiratory syndrome SARS)が世界的に流行し、日本も新しい感染の脅威にさらされた。しかも院内感染が高頻度におこり、死亡例も高いとのことで、患者の受け入れに各医療機関とも感染対策等に相当の神経を使い、感染症に対する危機意識と感染管理の重要性を再認識する機会になった。
 一方、これら急性感染症に対しては原因菌に対し有効な抗菌薬を投与するのが原則であるが、原因菌が不明の場合も多々ある。市中肺炎に対しては、各種ガイドインでマクロライド系抗菌薬が第一選択薬としてあげられている場合が多いが、現在、これらの原因菌(特に肺炎球菌)において耐性菌が増加傾向にある。しかし、抗菌薬は最小発育阻止濃度(MIC)以外の要因として薬物動態(pharmacokinetics PK)や薬力学(pharmacodynamics PD)を考慮すると、その有用性がさらに評価される。今後はMIC以外の要因を考慮した感染症治療が必要となってくる。           

                   於 奥香落山荘
                       
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