C型慢性肝炎治療の現況
奈良県立医大第3内科
福井 博
C型慢性肝炎はウイルス性慢性肝炎の約70%を占め、全国で約200万人の患者がいるといわれている。自覚症状の乏しいのが特徴であり、献血や健診の際に偶然発見される例が大半である。最近、ようやく基本健康診査の中にC型肝炎ウイルス(HCV)抗体検査が盛り込まれることとなり、来年度から40−70歳の患者を対象に5歳きざみで抗体検査が行われることとなった。われわれはこれまで定期的な健診で全く異常を指摘されなかったC型慢性肝炎、肝硬変、肝癌例を多数経験しており、今回の措置は遅きに失した印象を持つが、ともかく進歩には違いないと考えている。
C型慢性肝炎が経過中自然緩解することはきわめてまれであり、HCVが自然排除されることはまずないとされている。HCVの持続感染の結果、20−30年で肝硬変に、さらに10年で肝癌へと進展するといわれている。たまに肝機能検査を施行しても慢性肝炎の時期にはALT(GPT)上昇がごく軽度にとどまったり、全く正常のこともある。従って、HCVキャリアーであることがわからなければ、肝硬変、肝癌予防もおぼつかないわけであるので、採血の際にはHCV抗体を一度は必ずチェックしておきたい。大量の飲酒はC型慢性肝炎の肝硬変・肝癌への進行を促進させるので、HCVキャリアーでは飲酒は厳に戒めるべきである。
HCV抗体陽性とわかったときは慢性肝炎の存在を念頭において肝機能を精査する。この際、ALTが正常の場合もあることに留意し、ZTTの軽度の異常、ICGの軽度の停滞にも注意する。専門家による超音波検査も欠かせない。慢性肝炎の診断が得られたら、ウイルス排除と炎症の鎮静化の目的でインターフェロン(IFN)治療を積極的に進める。この際、肝生検が必ずしも必須でないとの見解もあるが、慢性肝炎の進行度をあらかじめ把握しておくこと、肝硬変を除外することは重要であり、組織所見の患者への説明は治療へのモテイベーションを高めることにもなる。IFNは大別してIFN-α、IFN-βがあるが、前者は連日筋注後隔日筋注6ヶ月間、後者は連日静注2ヶ月間の投与が保険で認められており、副作用や社会的条件により薬剤を選択している。
IFNの治療効果を左右する要因には多くのものがあるが、ウイルス側の因子としては、血中ウイルス量とHCVの遺伝子型が重要である。HCV駆除を基準に有効性を判定した場合、ゲノタイプ2a型、2b型(セロタイプ2型)感染者はゲノタイプ1b型(セロタイプ1型)より著効率が高く、治療前HCV-RNA量が分岐鎖DNAプローブ法で1.0Meq/ml以下の例は著効になる確立が高い。われわれはIFNの短期効果をCR(IFN終了後6ヶ月間HCV-RNA陰性)、PR(HCV-RNAの一時的な陰性化)、NR(HCV‐RNA陰性持続)の3群に分け、長期効果として肝硬変・肝癌への進行の有無を検討したが、CRではもちろんのこと、PRでも肝硬変・肝癌への進行が著明に抑制された。さらにNRでも数年間は肝硬変・肝癌への進行率が低いことも明らかになった。すなわち、C型慢性肝炎の長期予後を考えると禁忌でない限り、IFN治療を試みるべきであろう。さらに、ALTの平均値と肝硬変・肝癌への進行の間にも明らかな関係が有り、IFN投与の有無にかかわらずALT60未満の例ではこれらが有意に抑制された。また、IFN治療後ALT正常を続ける無症候性キャリアーの長期予後が良好であることも判明した。以上のように、C型慢性肝炎に対してはまずIFN治療を試みるが、HCV‐RNAの持続陰性化が得られない場合は、強力ミノファーゲンCの静注、ウルソデオキシコール酸の経口投与などによりALTをできる限り正常化させておくことが肝要である。
IFN治療無効例に対してはIFN再投与、IFNとリバビリンの併用療法、ぺグIFNなどが試みられている。これまで、IFN再投与は初回PRまたはALT有効例でかつセロタイプ2型あるいはHCV‐RNA1.0Meq/ml以下の例にしか保険適応がないという強い制限があったため十分な効果を期待できなかった。IFNとりバビリンの併用療法はセロタイプ1型の高ウイルス量例でも約25%にCRが得られ、再投与にも制限が設けられていないことから、有望な治療法になる可能性がある。また、現在臨床試験が進行中のぺグIFNは週1回の投与で高い著効率を得られることから、今後の進展に期待がかけられる。
平成13年 11月17日
於 美榛苑
もどる