抗酸菌感染症について
天理よろづ相談所病院
呼吸器内科 田中 栄作
結核は、Mycobacterium tuberculosis complex(M.tuberculosis,M.bovis,M.africanum)を起炎菌とする感染症と定義されている。 結核は初感染から連続して発症し、あるいは感染から、数年から数十年の潜伏期を経て発症するが、約90%の感染者は発症することなく寿命を全うすることが報告されている。わが国では、感染直後の発病者(一次結核症)よりも、感染後数年から数十年の潜伏期を経て発病(二次結核症)する患者が多い。発病のリスクファクターとしては、HIV感染・塵肺症・糖尿病・免疫抑制剤の使用 ・ 腎不全 ・ 担癌状態 ・ 低栄養状態 ・ 胃切除などがあげられる。
T. 初感染
結核菌は自然界の水系・土壌中などでは増殖する事ができないため、宿主の体内が唯一の生存相である。結核患者の咳嗽や会話とともに空気中に飛散した結核菌を含んだ水滴は、大気中で乾燥され直径が5−10μmの飛沫核(dropletnuclei)と呼ばれる浮遊物となり、その飛沫核が吸入されることによって、結核菌は新たな宿主の体内に侵入する。それより大きな飛沫核は大気中に漂うことなく落下し、あるいは吸入されても肺胞に到達することはできずに気管支上皮に沈着することとなり、粘液線毛輸送系により排除されてしまうと考えられている。肺胞に到達した結核菌は肺胞マクロファージに貧食される。貧食された結核菌は、殺菌されるか、phagosome 内で増殖する。
この第一の障壁が突破されると、結核菌は肺胞マクロファージが破壊されるまで、増殖を続ける。マクロファージの破壊により、放り出された結核菌は、新たに血中から遊走してきた単球に貧食され、その中で増殖するということを次々に繰り返し、初感染原発巣(primary lesion)が形成される。初感染原発巣は飛沫核の到達部位から連続性に形成されるため、気流の分布が多い S3 ・ 中葉 ・ S8 ・ S9 ・ S10 の胸膜直下に形成される。この時点では、いまだ細胞性免疫は成立していないため、結核菌の一部は妨げられることなく、リンパ流を介して肺門に到達して肺門リンパ節病変を形成し(初期変化群の成立)、あるいは血流を介して肺尖部や全身に広がり二次初感染巣(secondary lesion)を形成すると考えられている。
感染から2〜4週経過すると、マクロファージから抗原提示を受けた、結核菌に特異的なTリンパ球の増殖により細胞性免疫が成立する。同時にツベルクリン反応が陽性化し、結核菌の感染が成立したことが、初めて臨床的に確認できるようになる。この時点では、感染者は無症状であり、血液検査でも異常は認められないため、ツベルクリン反応が唯一の結核感染の指標となる。
U. 一次結核症 (primary tuberculosis )
感染者のうち約5%のヒトでは、初感染に引き続いて結核が発症する(一次結核症、primary tuberculosis)。細胞性免疫が未熟な間に大量に結核菌が増殖し、細胞性免疫が発動した時点では、すでに対処できない状況に到ったものと推測される。したがって一次結核症では必然的にリンパ節結核や栗粒結核の頻度が高い。
V. 二次結核症 (postprimary tuberculosis)
さらに感染者のなかに約5%のヒトでは、初期には成功していた結核菌の封じ込めが何らかの誘因により破綻し、結核菌が潜伏した状態から再び増殖する状態に移行する(内因性再燃、 endogenous reactivation)。この変化の誘因としては、免疫抑制剤やHIV感染などの重篤な要因だけでなくて、老化や栄養状態の悪化などの軽微な要因が知られており、また、内因性再燃の原因が明らかにできないことも多い。
W. 肺結核症の診断
2週間以上持続する咳嗽 ・ 喀痰 、発熱、血痰、全身倦怠感、体重減少を主訴とする患者では結核を念頭に置く。 20%の発病者は健康診断時の胸部X線検査で発見される。問診では結核患者との接触歴(とくに同居家族の結核治療歴)、過去のツベルクリン反応の結果、BCG接触歴が重要である。
X. 治療
わが国では厚生省告示による「結核医療の基準」にもとづいて標準治療がなされることが求められている。なかでも、必ずINHとRFPを含む多剤併用療法を施行すること、11種類の抗結核剤として認可された薬剤の中で、first−line drug 5薬剤の中から選択すること。secon−line drug 6薬剤は、耐性結核の時や、副作用のため他に使用可能な first−line drug が無いときだけ選択の対象となることなどが重要である。
平成13年7月14日
於 御杖村開発センター
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