頻尿、尿失禁について
鳥取大学医学部 器官制御外科学講座腎泌尿器学分野
平川 真治
通常,人生の約 0.1%のみが排尿に要する時間であり,残りの 99.9%は膀胱に尿をためていることになります。つまり,膀胱には蓄尿機能と排尿機能があり、排尿障害(排尿機能の障害)により排尿困難、残尿、尿閉などの症状、一方、蓄尿障害(蓄尿機能の障害)により頻尿、尿失禁などの症状を起こします。本日は蓄尿障害である頻尿、尿失禁についてお話しさせていただきます。
排尿回数が1日8回以上のときを頻尿といい、就寝以降の夜間の排尿回数が2回以上の場合を夜間頻尿と呼びます。頻尿の原因は、膀胱への刺激、膀胱容量の減少、残尿、排尿反射抑制路の障害、尿量増加(いわゆる多尿)、神経性頻尿に大きく分けられます。
頻尿を起こす疾患のなかで重要な前立腺肥大についてですが、最近増加の一途をたどっており、その診断は、自覚症状(国際前立腺症状スコア)、QOL、他覚所見で行われます。先生方の日常診療に、最近作成された前立腺肥大症診療ガイドラインの使用をお勧めします。前立腺癌との鑑別が重要で、腫瘍マーカーの前立腺特異抗原(PSA)、直腸診、経直腸的超音波断層法などでなされます。50才以上の方で尿が出にくいという患者さんが来られましたら、まずPSAを調べていただきたいと存じます。
尿失禁とは膀胱にたまった尿が不随意または無意識のうちに尿道もしくはそれ以外の場所を通じて外陰部に漏出する状態で、社会的、衛生学的に問題となる状態です。尿失禁には尿道を通じて尿が漏れる真性尿疾禁と、尿道以外の通路を通って漏れる尿道外尿失禁、別名仮性尿失禁の2つがあります。いわゆる狭義の尿失禁とは尿道性尿失禁のことで、簡単に言いますと、膀胱の内圧が、尿道閉鎖圧 つまり尿道をしめる圧よりも高くなるために、尿が漏れるわけです。治療を必要とするかどうかは別として、女性の30%ぐらいに(若い女性でもしばしば)尿失禁がみられます。尿失禁は、切迫性尿失禁、反射性尿失禁、腹圧性尿失禁、溢流性尿失禁、完全尿失禁、遺尿症、機能性尿失禁に分類されることが多いようです。
腹圧性尿失禁の保存的治療には、骨盤底筋体操、薬物治療(β2受容体刺激剤、三環系抗うつ薬など)などがあり、手術療法としては、スリング手術(TVT手術など)、尿道周囲コラーゲン注入などがあります。また、切迫性尿失禁に対しては、薬物療法が第一選択で、プロピべリン、オキシブチニンなどの抗コリン薬がその主役になっています。
最後に、最近話題になっている過活動膀胱症候群(Overactive Bladder Syndrome;OAB)についてお話しさせていただきます。OABとは、2001年の国際尿禁制学会の定義では、あくまで症状に基づいた診断で、尿意切迫感のみが必須症状で、通常、頻尿と夜間頻尿を有し、切迫性尿失禁の有無は問わないとされています。OABの頻度は3%〜43%と報告されており、世界で約5億人がOABに羅患していると推定されています。OABの問題点としては、除外診断が具体的でなく、日本ではまだ保険適応病名になっていないことなどです。OABの治療法には、行動療法(膀胱訓練)、経口的薬物治療(抗コリン薬)、膀胱内注入療法、Neuromodulation、手術などがありますが、治療の中心は抗コリン薬です。
御静聴ありがとうございました。
平成14年11月16日 於美榛苑
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