スギ花粉症は1960年代に初めて報告された比較的新しい疾患であるが、日本の高度経済成長と共に爆発的に患者数が増大した。その原因の第一は戦後に行われた大量の杉の植林によりこの年代に花粉の飛散が増大したことであるがそれに加えて、大気汚染特にディーゼルエンジンの排気に含まれる微粒子の影響や、食生活の欧米化、我々を取り巻く衛生環境の変化なども関与しているといわれている。現在ではスギ花粉症の有病率は30%程度もあり、以前は見られなかった小児例を含めて花粉症患者は年々増加してきた。また、発症にいたっていなくともスギ花粉に感作された人の数はもっと多く、東京では人口の57%に達するという報告がある、感作された人の多くは発症するのでまだまだ今後患者は増え続けると考えられている。
スギ花粉症の治療の第一はスギ花粉が飛散する2月から4月にかけて花粉を避けることである。このためには最近精度および情報量が増した花粉飛散情報をインターネットなどで確認することが重要である。花粉が飛びそうな日には外出を避けること、外出せざるを得ないときにはマスク、眼鏡を着用することまた、室内に花粉を持ち込まないように気をつけることが推奨される。室内の清掃、空気清浄機の使用なども有効と考えられる。花粉を吸入しないようにすることは患者の症状を緩和するだけでなく花粉症の感作、発症を予防するという観点からも重要である。巷には花粉症に効果があるとされる健康食品やサプリメント類が多数出回っているが、花粉症に対する有効性が証明されたものはない。医師としてこれらの効能を知る必要は全くないが名前ぐらいは知っておいた方が良いかも知れない。
耳鼻科専門医にとっては問診と鼻鏡検査だけでこの疾患の診断は容易であるが、RAST検査、鼻汁中好酸球の測定なども行うことで血管運動性鼻炎や副鼻腔炎との鑑別診断を行うことが出来る。スギ花粉症の根本的治療として抗原特異的免疫療法(減感作療法)を行うことでこの疾患を完治に導けるとされているが治癒率は低く、数年にわたる定期的なアレルゲンエキスの注射が必要であり、アナフィラキシーショックの副作用もあるので費用対効果を考えれば妥当な治療とは考えられない。鼻閉が高度の場合にはレーザー治療や粘膜下下甲介切除術などの手術療法の適応になるが、治療の主体は薬物治療である。具体的な方法論は「鼻アレルギー診療ガイドライン(2009年版)」に詳しいが要するに重症度と病型(くしゃみ・鼻水型か鼻閉型か)に応じて治療法を選択することが必要で第2世代抗ヒスタミン剤とステロイド鼻噴霧液を単独または併用して鼻閉型には抗LTs剤も使用するというものである。ステロイド剤の全身投与は行わないのが原則である。
平成21年のスギ花粉飛散量は関西では平成20年の数倍に達すると予測されている。今シーズンは非常に多くの患者が医療施設を訪れると思われるが診療の参考になれば幸いである。
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