過活動膀胱(OAB;Overactive Bladder)とは下部尿路症状の分類の中の、蓄尿症状の特に尿意切迫感(Urgency)の症状を必須とする症状・症候群で、排尿筋の不随意収縮(排尿筋活動)が潜在的原因で生じると考えられる。尿意切迫感とは「失禁してしまいそうな強い尿意が急におこってくる」状態をさす。
従来のOAB診断根拠は「尿流動体検査(UDS)にて排尿筋不随意収縮を認めたもの」であった。しかし、OABの症状と通常のUDS所見が必ずしも相関しないことや、患者がOAB症状を相談するのは地域の一般医やプライマリケア医など泌尿器科専門医でない場合も多いこと等、従来のOABの定義による疾患概念には問題点もあり、定義の変更の必要性があった。
その結果、新しい過活動膀胱の定義として、従来の尿流動体検査所見に重点を置かれていたものから、初期診断としては尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿や夜間頻尿を伴うものとするという症状に基づいて行われるようになった。前立腺肥大(BPH)においてもOAB症状と重なることがある。
OAB発症のメカニズムとして筋原性要素と神経原性要素とに分類される。神経性OABとして、脳血管障害や脊髄損傷等があり、非神経性OABとしては下部尿路閉塞や加齢、特発性等がある。過活動膀胱はQOL低下に強く関わっており、男女とも、加齢に伴い有病率は増加する。過活動膀胱の推定罹患率は本邦40歳以上人口の12.4%、810万人と推定されており、糖尿病を強く疑われる人数と同程度である。
なお、OABの診断にあたっては過活動膀胱診療ガイドラインにあるように、「局所的な病態(悪性腫瘍、膀胱結石、尿路結石、尿路感染症など)を除外する」ことが肝要である。
OABの薬物治療における第一選択薬は、抗コリン剤(ソリフェナシン、トルテロジン、イミダフェナシン等)であり、膀胱壁のムスカリン受容体(主にサブタイプM3)を阻害し、不随意収縮を抑制し、膀胱容量を増大することで、頻尿・尿意切迫感の改善をはかることができる。副作用として、特に排尿困難、残尿量増加、尿閉と口渇感、便秘に注意が必要である。加齢に伴い、膀胱収縮力低下の症例の割合が増加する傾向にあるため、抗コリン薬投与によって残尿量増加につながる心配があり、高齢者、特に女性の治療薬の容量設定には注意が必要である。
過活動膀胱に対する抗コリン薬低容量投与(ソリフェナシン、トルテロジン、プロピベリン)についての検討において、常用量の半量症例で十分に効果があり、各薬剤間の比較でも同程度で、副作用、残尿量の推移、IPSS、QOLスコア、OABSS、キング調査票においても3群間に差はなかった。この結果より、過活動膀胱に対する抗コリン薬の使用については、男女にかかわらず、低容量で開始し、満足な結果が得られなかったときに増量する方法がよいと思われる。
このようなOAB診療にあたっては、過活動膀胱診療ガイドライン2005に「過活動膀胱診療アルゴリズム」が示されており、超音波検査による残尿量の測定が推奨されている。
さらに、抗コリン薬の適正使用として、認知機能障害への注意が必要であり、不穏などの兆候がみられたら投与を中止する。脳内移行の少ない薬剤の選択が適切であるが、各薬剤の医薬品インタビューフォームおける脳内移行については同程度である。脳内ムスカリン性受容体結合に対する膀胱選択性はソリフェナシンが他剤に比べて高いとの報告がみられる。
膀胱頚部から前立腺には尿禁制に作用するα1A/D受容体が密に分布しており、α1-blocker投与により排尿時の閉塞症状の改善が期待できる。ヒト尿道におけるα1受容体の存在における性差については女性より男性が高いことが示されている
α1-blockerは、前立腺肥大症などによる下部尿路閉塞症状を緩和することにより、二次的にOAB症状を改善しうる可能性が期待できる。動脈硬化など血管病変に伴う慢性膀胱虚血が、下部尿路症状や過活動膀胱の発生に関与する可能性が示唆されている。
以上の如く、OABの診断・治療にあたっては、まず悪性腫瘍など局所的な病態を除外する必要がある。また、残尿量の多い場合は、抗コリン薬の投与は慎重に行い、低容量からの投与を考慮し、漫然と投与を行わない。特に、高齢女性では注意を要する。さらに高齢男性の場合は前立腺肥大を合併してる可能性が高いため、α1-blockerによる治療を開始、あるいは専門医へ紹介することも望ましい。
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