本邦では,人口の高齢化に伴って動脈硬化が原因となる虚血性心疾患が増加している.厚生労働省の統計によると日本人全体での年間死亡数は平成20年の1年間で約110万人であり,そのうち心臓病による死亡は全体の約16%を占めて,悪性新生物(ガン)に次いで二位を占めている.さらに,心臓病が占める割合は男女とも年齢とともに上昇して,特に80歳以上の女性では全体の20%を占めるようになり,現状の統計から見ても,今後も高齢者が増加すると考えられている日本では心臓病は将来により大きな問題になってくると考えられる.
冠動脈危険因子に関する治療は,最近の20年間に進歩し,特に,高血圧,脂質異常症の治療法は大きく改善された.しかし,食習慣の欧米化や運動不足などの生活習慣による危険因子の増悪には十分には対応できていないのも現状である.2007年に発表されたCOURAGE研究の結果では,生活習慣,血圧,脂質異常,糖尿病などあらゆる冠危険因子に対する包括的で十分な介入(Optimal medical treatment)は,冠動脈形成術(PCI)施行患者の生命予後と差はなかったと結論している.すなわち,患者の日常生活習慣への適切な指導を徹底させ,そこに各危険因子の治療目標値の達成のために必要な薬剤を使用することの重要性が再認識されたと考えられる.
一方,冠動脈疾患の診断に関しては新しい検査法が導入されつつある.その一つは冠動脈CTであり,従来の多列冠動脈CTでは冠動脈内腔の情報(血管狭窄度)に限られていたものが,最近のDual Source CTの登場により,冠動脈壁の性状を評価できる可能性が出てきた.すなわち,冠危険因子に対する治療が実際の冠動脈のプラークにどのような影響(退縮効果)を定量的に評価することが可能になってきており,治療薬の動脈硬化進展に対する効果の客観的かつ非侵襲的評価への応用が期待される.
さらに近い将来には,数種類の循環器治療薬が多く使用可能になる.これらの中には,新しい組み合わせの降圧薬による合剤,降圧薬とスタチンの合剤など従来の治療のコンプライアンスとコストを削減を目的としたものも含まれる.さらに,新しい降圧薬としての直接レニン阻害薬(Direct Renin Inhibitor),NEP(neutral endopeptidase)阻害薬,さらに新しい心不全治療薬のバソプレッシン受容体拮抗薬などが挙げられる.
虚血性心疾患の治療に関しては,患者の生活習慣への介入を起訴として,現在用いられている薬物,さらに今後使用可能となる薬物の特徴や副作用を熟知した上で,個々の患者に対するoptical medical treatmentを行なうことが重要であると考える.
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