日常生活の中での医療を支えるのが在宅医療であることは前回に述べました。その在宅医療においては、多くの場合、病気の治癒(ちゆ)を目指すよりも、療養者一人ひとりの身の丈に応じた、「生命の質(QOL)」が第一といった考え方が大切にされます。
その昔、容易なことでは病気の治ることのない時代、すなわち医学や医術が未発展の時代には、療養者を和ませ、苦痛を和らげ、安心させる術(広い意味での「緩和ケア」)は、病める人に寄り添う看護や介護でした。
しかし、医学や医術、すなわち医療が進歩するにつれて、手を加え医療を駆使して病気を「治癒させる」ことが苦痛を和らげる最も効果的な方法と考えられるようになりました。「治らない病気もある」ことに気づきながらも、いつの間にか、「治癒させる」ことに邁進する医療が主役になりました。「病院に行けば、医療にかかれば、病気を治せば・・・」という風潮ができあがってきました。「20世紀は病院の世紀」だと言われるゆえんです。
しかし、病院での入院医療は、ともすれば医療経済中心、あるいは医療者中心主義に陥りやすいことは経験上よく知られていることです。生活の場である「お家」「家庭」は「日常」であるのに対して、入院医療は、病気が重症であればあるほど、また、入院が長引けば長引くほど、普通ではない「非日常」になりがちです。
療養者の生命の質を守るための「日常の中で療養」に注目が集まるのも無理からぬことです。「在宅緩和ケア」は、そうした声に応(こた)える手段のひとつです。