在宅緩和ケア② ―「寿命」という終着駅―

 在宅緩和ケアとは「お家(うち)」で緩和ケアを行うことです。病気に関する痛みや苦しみといえば「病院で」と考えがちですが、それを「お家で」ということです。

 病院での治療のような「治癒(ちゆ)のための医療」は勿論大切ですが、「安心のための医療」も大切です。命に関わることを正面から考えるのは避けたくなるものですが、文字通り、不治のガンが「治る」ことを期待するのは現実的ではありません。さまざまな難病も治らないまま長い間の療養が必要です。年齢とともに増えていく色々な身体の故障や引き返すことのできない年齢そのものも「治す(元に戻す)」ことはできません。全てを「治す」、「元に戻す」ことを考えるのは、無い物ねだりになります。

 その上で、人には例外なく「あの世」、すなわち「寿命」という終着駅が待っております。元気で長生きを期待することは誰しもの願いですが、終着駅を避けることはできません。
 せめてその道中を豊かに過ごせないか、ということになりますが、その答えのひとつが、「お家にいるままで受ける緩和ケア」です。病院よりお家の方が「日常」に近くて、療養者本人だけでなく家族や介護人にも「優しい」終着駅にふさわしい場所です。住み慣れ、ちょっと手を伸ばせば自分のものに手を触れることができるお家は、病院の「非日常」とは違った味を持ち、そのことだけで痛みや苦しみが和らぐことも多いのです。

 そのためには、療養者本人や周りの方が「治る」・「永らえる」よりも「お家で、穏やかに、大切な時間を過ごしたい」と考えるかどうかです。さらに、時間的な余裕を持って病院の主治医が退院のタイミングを考えること、そして在宅での療養をサポートしてくれる医師がおられること、適切なお薬が手に入ることなどが条件になります。全てのケースでうまくいくとは言えませんが、日本の医療保険や介護保険制度は、その在宅緩和ケアを可能にする仕組みになっており、最近になってようやく、注目度が上がってきました。