在宅緩和ケア④―関係性と「モラル」―

 この10年間で我が国の緩和ケアは非常に進歩し、療養者が平穏(おだやか)な「人生の終着駅」を迎えるためのノウハウが蓄積されました。解熱鎮痛薬(げねつちんちいやく)、モルヒネなどの医療用麻薬、酸素療法等々、そのためのお薬や手段は沢山あります。どうするか、何を使うか、疾患が悪性のものか良性なのかは、あまり大きな問題ではありません。大切なことは「寿命」のままに、終着駅に到着するまで、穏(おだ)やかに暮せるかどうかです。同時に、介護に携わった方々が、なにがしかの、療養者からの「贈り物(ファイナルギフト)」(※)を受け取ってもらうことでもあります。ご家族がその贈り物を受け取って頂く場面に出会うと言いようのない感動すら覚えます。

 病院や施設で緩和ケアを受け、良い最期を迎えられた方々も少なくありません。しかし、多くの療養者が「最期は家に帰りたい」との希望を持っておられることもわかっています。本人が希望し、ご家族が寄り添えるなら、お家は緩和ケアの場としては最適かもしれません。在宅医療が実際に行えるかどうか、周りの関係者に相談する必要がある場合もありますが、要は、療養者とご家族の方の気持ち次第です。

 ただし、人の一生には、その人の歩んできた歴史が反映されます。穏やかな終着駅に到着するためには、それを意識した、ちょっとした日頃の心配りが前提です。自らが療養者となる以前から、人として、家庭人として、お世話し、お世話される家族関係、あるいは周りの方との関係性を大切にしておく必要があると思います。そうした心のあり方を、当たり前の心配り、「モラル」と表現したいと思います。