わが国における認知症患者は現在約250万人に迫るとされています。「認知症になると徐々に進行し一生治らない」と思われがちです。しかしながら、比較的簡単な手術で治療可能な認知症もあり、その代表が特発性正常圧水頭症です。65歳以上の日本人の1.1%、即ち31万人位の患者さんがいると推定されています。
一般に水頭症とは、脳の中にある脳室(のうしつ)と呼ばれるところや脳脊髄(のうせきずい)の表面を循環する髄液が、何らかの原因でその流れや吸収が妨げられ、脳室を拡大し、周囲の脳を圧迫することで起こります。
高齢者に起こる特発性正常圧水頭症の場合は、ゆっくりと進行するためか脳圧が上がることもなく、原因がはっきりしないことが多いです。通常は次の3つの症状が順に現れます。
(1)認知症…物忘れが多く、自発性や意欲の低下が目立ち、日常動作が緩慢(かんまん)となります。
(2)歩行障害…小刻み歩行で不安定になり、病状が進行すれば一人で歩けなくなります。
(3)尿(にょう)失禁(しっきん)…尿意を催してから排尿するまでの時間が短い(尿意切迫)ため、失禁してしまいます。
この病気の診断は、特徴的な右記3つの症状の確認とCTやMRIなどの画像検査で行われます。
特発性正常圧水頭症は、髄液の流れを良くする髄液シャント術によって症状が改善しますが、ゆっくりとした進行で気づかれないことも多いです。発病から長期間経過してしまうと、治療効果を期待することは難しいとされています。右記の3つの症状のいずれか一つでもあれば、専門医の診察を受けることが大切です。