奈良県医師会 井上孝文
皆さんは年をとるにつれて、「外出の機会が以前より減った」「おいしいものが食べられなくなった」「活動的ではなくなった」と感じることはありませんか?そのような方は、もしかすると「フレイル」の危険信号が点灯しているのかもしれません。
フレイルとは、わかりやすく言えば「加齢とともに心身の活力が低下した状態」のことで、英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。「Frailty」を辞書で引いてみると「もろさ」や「弱さ」、「はかなさ」とあり、この言葉のもつ少しネガティブなイメージが伝わってきます。一般的には、健康な状態と要介護状態のちょうど中間の段階がフレイルと考えてよいでしょう。また要介護認定を受けておられる方であれば、要支援の状態がフレイルに相当すると考えると理解しやすいと思います。大切なことは、フレイルの場合、早く気付いて適切な対策を行えば、進行を遅くしたり、再び健康な状態に戻したりすることができるということです。健康な状態からフレイル、フレイルから要介護状態への道のりは決して一方通行ではないということをまずご理解いただきたいと思います。
フレイルの発症には、体重減少や筋力低下などの身体的な変化だけでなく、気力の低下や閉じこもりなど精神的・社会的な問題が多面的に関わっています。たとえば、人との関わりが減って外出することがおっくうになると、活動量が減って筋力が低下したり、お腹がすかなくなって食欲が低下したりします。筋力が低下すると外出することがより困難となり、筋力や食欲もさらに低下してしまいます。このような悪循環に陥らないことがフレイル予防の第一歩だと言えます。
では、フレイルを予防するためには何に気を付ければよいでしょうか。特に大切と考えられている3項目(社会性、栄養、運動)についてお話ししたいと思います。まず、社会性(人とのつながり)を保つことはとても大切です。家の中に閉じこもりがちになると、足腰の筋力が低下し、認知機能も衰えやすくなります。意識して外出するとともに、自分に合った活動(趣味のサークルやボランティア活動、地域のイベントの手伝いなど)を見つけて積極的に参加しましょう。次に、栄養バランスの良い食事をとるよう心掛けてください。基礎疾患によってはかかりつけ医と相談しながら、筋肉の材料になるたんぱく質(肉・魚・大豆製品など)や、骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚など)を積極的に摂ることを意識してください。運動の大切さについては言うまでもありませんが、筋肉を増やし、筋力を高めるためには、掃除や買い物、階段の昇降など、日常生活の中でこまめに体を動かすことが大切です。また、無理のない範囲での筋トレやウォーキング、テレビ・ラジオ体操など、自分に合った運動の方法を見つけて実践しましょう。
特定の食事や運動を実践しても、それだけではフレイルは予防できません。重要なのは、3項目を三位一体で生活に取り入れ、それを継続していくことです。このことがフレイルの予防につながり、健康長寿を達成する秘訣になると思います。