感染性心内膜炎の予防

奈良県医師会 植山正邦

感染性心内膜炎は1年間で10万人あたり1~5人に起こるといわれる稀な病気ですが、一旦発症すれば多くの合併症を引き起こし適切な治療をしなければ死に至ります。心臓の内側を覆う心内膜(しんないまく)に細菌の病巣ができて炎症を起こす敗血症(はいけつしょう)で、早期の診断、治療および予防が重要です。

心内膜は本来なめらかですが、心臓弁膜症や先天性心疾患(せんてんせいしんしっかん)などでは血流異常により細かい傷ができることがあり、そこに血液に含まれる血小板やフィブリンが付着すると非感染性血栓性(ひかんせんせいけっせんせい)心内膜炎が起こります。その状態で、抜歯などの処置や上気道炎、肺炎などの感染症によって血液中に細菌が入り込むと(菌血症:きんけつしょう)、心内膜の炎症部分に細菌が集まり、感染性心内膜炎を発症します。この時、局所で細菌が増殖していぼ状に盛り上がる事があり、これを疣贅(ゆうぜい)といいます。

心臓の弁に疣贅ができると隣接組織に膿瘍(のうよう)を形成することもあり、弁や弁を支える組織が破壊されると、弁膜症が増悪して急性心不全を発症します。

心臓外の病変もあり、盛り上がった疣贅のかけらが剥がれ、血流にのってあらゆる臓器へ流れて、脳の血管に詰まると脳梗塞の原因になり、末梢血管に詰まると結膜や粘膜の点状出血、発疹や結節の形で現れます。また細菌が流れた先の臓器に膿瘍や動脈瘤(どうみゃくりゅう)を形成することもあり、脳出血を発症する場合もあります。
血液の中に細菌が紛れ込む原因は、外傷や手術、抜歯のような処置や、肺炎などの感染症、また虫歯、歯肉炎などです。起因菌は、皮膚に付いた黄色ブドウ球菌や、口腔内常在菌の緑色連鎖球菌が多く見られます。

発病初期の診断は難しいのですが、原因不明の発熱が続く場合には本症を疑い、早めに血液培養検査や心臓超音波検査を行うことが大切です。血液から細菌が検出されたり、超音波検査で疣贅や弁膜症が見られれば、高容量の抗生剤を長期にわたって投与しなければなりません。抗生剤の効果が不十分で疣贅が大きい場合や、弁膜症による心不全が強い場合には手術を行うこともあります。

発症してしまうと予後が不良の疾患ですので、心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さん(心臓手術後も含む)に対して菌血症を起こす恐れのある処置が行われる場合には、予防的に抗生剤を投与することが推奨されています。

特に歯科の口腔内処置後に菌血症を起こすことが多く、抜歯前にペニシリン系抗生剤の大量投与が推奨されています。しかし、アレルギーをお持ちの方もおられますので、事前に主治医と御相談されるのが良いでしょう。また歯については、日頃の口腔内ケアや定期的な歯科受診が何よりも大切で、拙速で乱暴な歯磨きを避けて、1日1回は時間をかけて丁寧に磨くように心がけてください。