新型コロナウイルス感染症の行方

奈良県医師会 安東範明

ハーバード大学の研究チームは4月14日の科学誌「サイエンス」で、新型コロナウイルス感染症の流行は医療体制が現在と変わらず治療法やワクチンがない場合は2022年まで続く可能性があると予測しています。そして感染拡大を防ぐためには社会的距離「ソーシャル・ディスタンス」すなわち人との距離を2m以上取る対策を断続的に維持する必要があるとしています。

治療法として期待されるのは、他の病気の治療薬として一定の安全性が確認されている、すでにある薬の転用です。アメリカで開発されたエボラ出血熱治療薬の「レムデシビル」は新型コロナウイルスの増殖を抑える働きが確認され、日本でも「ベクルリー®」という製品名の点滴静注薬として5月7日に認可されました。まずは重症の方に使用されています。

また、日本で開発された新型インフルエンザ治療薬の「ファビピラビル」、製品名「アビガン®」は、新型コロナウイルス感染症を対象とした臨床研究が開始され、まだ少ない症例数ながら一定の効果が確認されており内服薬の有力候補です。ただし催奇形性があるため妊婦さんへの投与ができません。マラリア治療薬のクロロキンは細胞を使った実験で効果が報告されています。ぜんそく治療用の吸入ステロイド「オルベスコ®」、急性膵炎の治療薬「フサン®」も研究が進行中です。日本で開発された疥癬(かいせん)や腸管糞線虫症(ちょうかんふんせんちゅうしょう)の薬である「イベルメクチン」製品名「ストロメクトール®」も効果が確認されれば外来での有力な内服薬として期待されます。

一方、感染予防のためのワクチン開発ですが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)は3月から核酸を使ったワクチンの治験に着手しました。来年早期の使用を目指しています。国内では大阪大学微生物病研究所はウイルスの遺伝子操作技術を活用したワクチン開発を開始しました。ただし安全性などの確認に時間が必要ですので、完成はやはり来年以降になる見込みです。

先の予測はなかなか難しいのですが、結果は私達が行ってきた行動変容をいかに生活様式として定着できるかにかかっています。すなわち社会的距離に加えて密閉、密集、密接の回避、マスクなどの咳エチケット、こまめな手洗いや手指消毒などの継続です。しかし感染力や患者数から考えて、今から1年以内にこの感染症が姿を消すことはないだろうと厳しい見解を示す専門家が多いです。国民の多くが感染して抗体を獲得する『社会的免疫』が成立するまで、あと2、3年は完全収束しないだろうとする見方もあります。長期戦の覚悟が必要です。

さて最近は外出制限や営業自粛などの皆の努力によって感染の拡大に一定の歯止めがみられ、日本中で「出口対策」が注目されています。しかし各種の規制を一度に解除すればすぐに第2波が襲ってくる危険があります。今後は段階的な規制緩和が行われることでしょう。その戦略を定めることは非常に難しい問題ですが、確実に言えることはサイエンスと経済および教育に諮問した上で、決断と責任は政治の仕事であるということです。皆で行方を注視していきましょう。