お薬はどうやってみんなが使えるようになるか?

奈良県医師会 赤井靖宏

 

みなさんが服用されるお薬は、「効果があってかつ副作用が少ない(安全である)」ことが重要です。このため、医師がお薬を処方できるまでには数段階のテスト(「治験(ちけん)」)が行われます。今回はこの「治験」について解説します。

まず、お薬の候補物質は平均5-8年間かけて製薬会社の研究所などで作られます。お薬の候補物質がやっと開発されると、まずは動物などに投与されて効果や安全性が調べられます。この時に、お薬がどのように吸収され、体外に排泄されるか、どれくらい効果があるか、過度な毒性がないかなどが調べられます。この過程には3-5年間かかります。この段階で多くの候補物質が、実は有効でなかったり、毒性が強かったりして、お薬の候補から脱落します。この段階を通過するといよいよ、ヒトに対するそのお薬の効果や副作用を確認する段階に入ります。これが「治験」です。治験の第一段階は、そのお薬が安全に使えるかどうかのテストです。このテストは、同意を得た少数の健康人を対象にして行われます。この段階は、お薬に大きな副作用がないことを確認します。このテストに合格すると第二段階のテストは、同意を得た少数の患者さんを対象に有効で安全な投薬量や投薬方法などを確認します。実際の患者さんにお薬を使ってみて評価する重要な段階です。この段階がうまく終了すると、今度は同意を得た多数の患者さんにお薬を使ってみて、今までに使われていたお薬と効果や副作用が違うかなどをテストする第三段階の治験が始まります。この治験でそのお薬の有効性や安全性が確認されると治験が終了します。これら3段階の治験には、3-7年間かかります。この3段階の治験においても、ヒトに有効でなかったり、副作用が多かったりすると、晴れの場にデビューすることなくお薬候補から脱落していきます。

「治験」が終わると、製薬企業は厚生労働省にそのお薬の製造販売承認の申請を行います。申請は、医学や薬学などの専門家チームで1-2年間かけて審査され、最終的に承認されると晴れてお薬として認められ、皆さんに処方されることになります。

このようにお薬がみなさんに処方される前には長い年月をかけた評価が行われているのです。ニュースなどで「いい薬が開発された」ということをみなさんがお聞きになった場合、すぐにでものめるのではないかと思いがちですが、実際にはそのニュースを聞かれてから何年か後にならなければ飲むことはできないのです。新たな感染症などが急に流行すると、緊急対応としてお薬のテストを何段階かスキップしてお薬が使えるようになる場合があります。このようなお薬を使う場合にはいつもよりも慎重に対応することが必要です。

お薬の有効性と安全性を確保するためには、多くの時間がかかります。みなさんに飲んでいただいているお薬は、このような厳しいテストに合格したものです。お薬が生まれ育ってきた経過を知っていただき、大切にお薬を飲んでいただきたいと思います。