奈良県医師会 中垣公男
肩腱板は上腕骨頭(じょうわんこっとう)という腕の骨の上部分と肩甲骨(けんこうこつ)をつないでいる腱です。肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)の4つの筋から成り立っています。このうち棘上筋腱は、肩峰(けんぽう)と骨頭と呼ばれる部位の間にあり、肩を挙げた時に圧迫されて腱の終末部で変性を起こし、断裂しやすい腱です。変性は40歳から徐々に始まり、60歳を超えるとかなり進行します。転倒転落などで腱板が切れることが多いですが、変性が強ければ外傷がなくても断裂することがあります。
症状は肩関節の痛みと肩を挙げにくくなることです。帯を結ぶことが困難となり、ベルトを通しづらくなります。夜間に痛くて眠れないこともあります。
診断は、単純X線写真では上腕骨の大結節という部位に異常を認めることがあります。症状が発生してから時間が経過しているようであれば、肩峰と骨頭の間が短くなっていることがあります。しかしX線写真では正確な診断はできません。現在、超音波診断装置が普及しており、この検査をすれば、ほとんどの肩腱板断裂は診断することができます。またMRIを撮像すればもっと正確な診断ができます。
腱板断裂の部位や大きさ、棘上筋の萎縮や脂肪変性の程度を把握でき、手術方法の選択や、術後の予後が推測され、術後のリハビリテーションに役立ちます。
治療は若年者で外傷により発症した肩腱板断裂の場合は手術療法が行われる場合が多いです。以前は切開して直接断裂腱板を上腕骨頭に骨孔(こつこう)と呼ばれる穴を開け縫着していましたが、近年 内視鏡の技術と手術器具の進歩により関節鏡により体への負担を少なく腱板を縫着することが出来るようになりました。この術式により早急に社会復帰が可能となりました。しかし広範囲の腱板断裂の場合は切開による縫合や筋腱を移行、移植する方法や人工腱板を使う方法が行われることが多いです。また、縫合が困難な例ではリバース型人工肩関節という特殊な人工関節を用いると、腱板が完全に機能しなくなっている肩でも腕を上がるようにすることが可能です。ただし、リバース型人工肩関節はガイドラインに基づいた厳密な手術適応があるため、誰でも受けられるものではありません。
高齢者で外傷がなく発症した肩腱板断裂の治療は、まず手術以外の治療が選択されます。消炎鎮痛剤、漢方薬、湿布などを使います。肩関節内に局所麻酔剤とステロイドを混合して注入すると夜間の痛みは軽快します。肩をたくさん動かしすぎると、腱板断裂部分に負荷がかかって、断裂が大きくなる可能性はあるのですが、痛みが少ない範囲で動かしていいので、通常の日常生活を送っていいと思われます。
肩腱板断裂に似た病気がいわゆる五十肩です。五十肩とは、靭帯(じんたい)、腱組織が老化により炎症を起こし、肩関節の関節包(かんせつほう)が狭小化した結果、肩関節の痛みや動きの制限が生じている状態です。五十肩は半年から2年くらいでほとんど完治します。肩腱板断裂は疼痛が軽快することがありますが、全く無症状となることはほとんどありません。
肩の痛みが長く持続しておられる方はぜひ整形外科医を受診されることをお勧めします。