片頭痛

奈良県医師会 松村榮久 

 片頭痛は非常にありふれた病気で、有病率は男性約4%、女性では約12%とされています。大半は10歳から20歳代で発症、40~50歳代まで続き、その後年齢とともに軽減ないし消失していきます。

頭痛は発作性で、頭の片側のことが多いですが両側のこともあります。典型的には脈打つようなズキズキする頭痛ですが、じわーっとした痛みのこともあります。吐き気を伴うことが非常に多く、暗く静かなところでじっと寝ていることを好みます。逆に言えば仕事や家事、学校の授業は辛いです。朝起床時から頭痛がして、本人が「今日はしんどくて休む」「今日は(吐き気がして)食べたくないから休む」と言うと、「ただのさぼり」「仮病」と誤解されてしまうこともあります。

片頭痛には時折、「前兆」が生じることがあります。典型的な現象はチカチカした銀色の光が視野の一部に現れ、その光が徐々に大きくなります。光のところは視野が欠け見えなくなってきます。テストであれば問題用紙の一部が読めないのです。そのまま15~20分ほどすると、ひどい頭痛と吐き気がやってきます。頭痛は治療をしない場合4時間から72時間続きますが、一晩眠ればたいてい治まります。また天候(低気圧が近づくとき、雨の日の前)の影響を受けやすく、女性では生理周期に伴い(生理開始2日前から生理後3日まで)頭痛がおこりやすいです。片頭痛は遺伝性があり、たいてい両親のいずれか(多くは母親)に片頭痛がみられます。

さて中高年の方には、片頭痛に対して若い頃より市販の頭痛薬を長期間服用してきた人が少なからずおられます。一部の頭痛剤は習慣性があり、毎日のように服用していると「薬剤乱用性頭痛」を発症します。頭痛薬の効果が切れることにより生じる毎日の頭痛で、そのため延々と頭痛薬を飲み続けてしまうのです。市販の頭痛剤でも安全性の高いものもあります。また片頭痛発作に大変有効なトリプタン製剤、片頭痛発作の回数が多い人に使う予防薬、薬剤依存性頭痛の治療法もあります。トリプタン製剤が著効する場合、1時間以内に頭痛が消失しとても喜ばれます。

なお40歳を過ぎてから初めて片頭痛を経験することはまずありません。中高年でのひどい頭痛や初めての頭痛は、突然の頭痛であればクモ膜下出血、片目がぼんやりと見えにくければ緑内障発作の可能性があり、いずれも緊急を要する疾患です。

余談ですが、卑弥呼は片頭痛だったとの説があります。片頭痛は低気圧が近づくとしばしば悪化します。「わらわは頭痛を感じるから明日は雨じゃ」と予言し、またその日に雨乞いの祈祷を行えば、翌日は確かに雨が降ったことでしょう。預言者、女王としてあがめられたのは片頭痛のおかげというわけです。織田信長、芥川龍之介、ゴッホ、ピカソも片頭痛だったとされています。予知能力に優れたカリスマや繊細な芸術家がたくさんおられますね。