夏場は特にご注意を ― 痛みの王様「尿路結石」とは? ―

奈良県医師会 植月 祐次

 

病気の中で一番痛い病気はなんでしょうか?

「ぎっくり腰」「痛風」「歯の痛み」「陣痛、出産(病気ではないですが)」…。皆さんの中でもご経験された病気もあると思います。

もちろん同じ病気でも程度によって症状は違いますし、痛みの感じ方は人それぞれですが、私が専門の泌尿器科で痛い病気はといえば「尿路結石」です。諸説ありますが「三大激痛の一つ」とか「痛みの王様」と呼ばれることもあります。「一番はどれか?」はさておき、尿路結石はとても痛い病気であることは間違いありません。

尿路結石とは文字通り「尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道のおしっこの通り道)に石ができる病気」です。結石は実際の石と成分は違うのですが、見た目や硬さは石にそっくりです。結石が腎臓で出来て尿路を通過するときに尿路につまったり、結石が周りの組織を傷つけることによって炎症や感染をおこし、痛みの原因となります。

結石の成分はカルシウムやシュウ酸、尿酸、リン酸などのおしっこに出る老廃物です。原因は特定できないことも多いですが、肥満、生活習慣病、食事の偏りや尿路感染症、寝たきり、ごく一部の遺伝性の病気によって結石ができやすくなります。

男女比は2.4:1で男性が2倍以上多く、2005年の調査では年間罹患数(ある1年間にその病気にかかる人数)は10万人当たり134人で、年々増加しています。生涯罹患率(一生の中でその病気にかかる可能性)は男性では15.1%,女性では6.8%となり,男性では7 人に1 人、女性では15 人に1 人が一生に一度は尿路結石にかかることになります。

自覚症状としては背中、脇腹、下腹部の突然の激しい痛みや見た目でわかる肉眼的血尿があります。痛みは夜間や明け方に多く、痛みの強さは強くなったり弱くなったりと波があります。夜間突然の激痛により救急車で病院に搬送される方も珍しくありません。

結石を疑った場合、まずは痛み止めの内服薬、座薬、注射などで痛みを軽減させてから原因診断を行います。診断は尿検査で血尿や尿路感染症の有無を調べ、レントゲン、超音波検査、CT検査などで尿路に結石を認めれば確定診断となります。

治療は結石の大きさ、位置、尿路の閉塞の有無、尿路感染を併発しているかによって、治療方法が変わります。数ミリ程度の小さな結石で尿路の閉塞を起こしていない場合は痛み止めで痛みを抑えて、結石が出やすくなる薬を処方して自然に出るのを待つことが多いです。「薬で結石を溶かす」とよく言われますが、尿酸結石など薬で溶ける可能性のある結石は一部で、大多数を占めるカルシウムの結石は薬では溶けません。結石が大きい場合、嵌頓(尿路につまる)して尿路に閉塞を起こしている場合は手術が必要になります。一般的に1cmを超える結石は自然排石が困難と言われています。手術は結石の位置、大きさ、症状で違いますが、体外から衝撃波を与えて結石を砕く「ESWL(体外衝撃波結石破砕術)」、尿道から尿管内に内視鏡を入れて結石を砕く「TUL(経尿道的尿路結石除去術)」が主体で、おなかを切る手術はほとんど行いません。

無事に結石が治癒しても半数以上の方が再発します。結石の再発予防のために日常生活では水分をしっかり摂取することとバランスの良い食事が推奨されています。水分補給は特に重要であり、1日あたり2リットルの尿量を保つようにします。結石の成分であるシュウ酸(コーヒー、紅茶、チョコレート、ほうれん草等に多い)や尿酸(ビール、プリン体の多いもの)は控えた方がよいですが、カルシウム低下すると逆に結石になりやすくなります。

汗をかくこの季節は特に結石が増えますので、皆さんも、なるべく水分をとって痛みの王様に出会わないように注意してください。