奈良県医師会 中垣公男
「漢方薬」は天然に存在する生薬(しょうやく)の組み合わせで出来ており、自然治癒力を高め、体調を整えます。一般的な医療現場で使用される漢方薬のほとんどは、エキス顆粒剤(かりゅうざい)(医療用漢方製剤)です。エキス剤は、煎じ薬(せんじぐすり)を濃縮、乾燥させてアルミパックに入れたものです。携帯しやすく、飲みやすいというメリットだけではなく、生薬が天然品であるがゆえの「品質のバラつき」や「変質」が起きにくくなっています。
「漢方医学」では、患者さんを病名で診断するだけでなく、一人ひとりの体質や病気の状態を見きわめながら、最適な漢方薬を使い分けていく、いわゆる「オーダーメード」の治療を行います。ですから、同じ病気でも患者さんの状態によってのむ薬が違ったり(同病異治:どうびょういち)、ひとつの薬がいろいろな病気に応用される(異病同治:いびょうどうち)ことがあります。効き目や安全性についての古代からの経験をもとにした理論体系に基づき、患者さんの症状に応じて複数の生薬を組み合わせて使うことが多いため、一つの漢方薬でさまざまな症状を治す複合的な効果が期待されます。いろいろな症状があり、たくさんの薬をのまなければならないお年寄りにとっては負担の軽減にもつながり、医療費全体の軽減においても、メリットがあると思われます。
薬物は一般的に、食後に服用するより食前、食間など、空腹時に服用する方が体内に素早く吸収されます。ほとんどの漢方薬は、薬剤のなかでは胃腸への負担が比較的少ないために、成分吸収の早い食前または食間など、空腹時の服用が推奨されています(同一の漢方薬でも、患者さんや症状などによる例外があります)。
漢方治療では痛みを抑えるのみではなく、血液の鬱滞(うったい)や循環を改善して痛みを軽減し、体調を整えます。慢性腰痛は漢方薬が適しています。皮膚が乾燥し下肢がつるような腰痛は疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)が用いられ、口渇、頻尿、下肢の冷えやしびれがある腰痛には八味地黄丸(ハチミジオウガン)や牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)が用いられます。しもやけができる手足の冷えがあり、寒冷で増悪する腰痛には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)が使われます。
漢方薬と漢方薬以外の薬、いわゆる西洋薬との併用は珍しいことではありません。むしろ併用することによって、「薬が効きやすくなる」「治療期間が短縮される」「副作用が軽減される」「薬の用量が削減できる」など、西洋薬の限界や欠点を補うさまざまな効果も報告されています。
漢方薬にも副作用があり、麻黄(まおう)は動機をおこすことがあり、甘草(かんぞう)はむくみがでたり血圧があがることもあります。 また内服中一次的に予期しない症状が出ることがあります。これは病気がよくなる前に一時的に出る不快な症状で、瞑眩(めいげん)といいます。副作用か、瞑眩かの判断は難しいので医師と相談してください。