食物アレルギーとアトピー性皮膚炎

奈良県医師会 中矢雅治

アトピー性皮膚炎は、かつて食物アレルギーによるものではないかと考えられていました。血液検査で種々の抗体検査を行い、数値が高いとその食べ物は避けられていました。しかしながら現在ではその考えは否定され、経皮感作(けいひかんさ)と経口免疫寛容(けいこうめんえきかんよう)という考えが主流です。

肌が荒れると、そこから食べ物などの抗原が侵入してきます。家の床には卵や小麦、乳といった多くの抗原が存在しています。正常の皮膚であればそれほど影響はありませんが、肌が荒れて角質層のバリア機能が低下していると、さまざまな抗原が皮膚から侵入し、食物アレルギーを誘発しやすくなります。これを経皮感作といいます。そのため、適切なスキンケアをして肌をきれいに保つことが食物アレルギーの発症を抑えることにつながります。お風呂では皮膚についた抗原を洗い流すだけでよいので、泡の石鹸を使って手でやさしく洗ってください。乳児湿疹も早めにステロイド軟膏を使用して、湿疹が改善したら保湿剤でつるつるの状態を維持しましょう。

食物アレルギーの予防には離乳食を遅らせすぎないことも大切です。生後5か月頃から離乳食を開始し、卵も6か月頃から食べ始めることが推奨されています。早期から食べ物を口から入れることで、体が異物とは認識せず、食べ物と認識するようになっていきます。これを経口免疫寛容といいます。特にアレルギー素因のある子ほど離乳食を遅らせないことが大切です。

慢性的に皮膚の炎症があるアトピー性皮膚炎であっても、まずはしっかりとステロイド軟膏を塗布します。軟膏はティッシュが肌に貼りつく程度にたっぷりと塗り、皮膚についている時間をできるだけ長く確保しましょう。ステロイド軟膏は皮膚から浸透することで効果が出てきます。塗り込むのではなく、皮膚についている時間を保つことがとても大切です。軟膏が取れないようにチュビファースト(チューブ型包帯)などの布で覆うことも有効です。また、表面の見た目がきれいになっても、奥にある真皮(しんぴ)の炎症は残っていることが多いため、軟膏の後押しが必要です。1日に1回、2日に1回と間隔をゆっくりとあけながらステロイド軟膏を定期的に塗っていきます。この方法をプロアクティブ療法といいます。常に痒みがない状態を保つことで、皮膚は徐々に正常化し、ステロイド軟膏の使用量は減っていきます。炎症が治まれば保湿剤も徐々に併用していきますが、炎症が残っている状態で保湿剤を使用すると、血行促進作用のため痒みが増強することがあるので注意が必要です。

ステロイド軟膏の副作用としては長期間使用すると皮膚の菲薄化(ひはくか)や毛細血管拡張が見られることもありますので、2歳以上の子であればステロイド軟膏からタクロリムス軟膏へ変更することもあります。ただ使いはじめは熱感を伴うことがありますので、初期治療はやはりステロイド軟膏がおすすめです。つるつるの皮膚を保つことで、夜も熟睡できたり、日中もイライラせずに過ごせたり、自分に自信が持てるようになったりします。皮膚問題を解決し、心身とも健やかに育ってほしいものです。