多発性のう胞腎をご存知ですか?

奈良県医師会 赤井靖宏

みなさんの中に、血のつながった身内に腎臓が悪い人が多い、透析を受けている人が多い、あるいはくも膜下出血が多いという方はおられませんか?このような場合は、「多発性のう胞腎」という病気を考える必要があります。この病気は腎臓に「のう胞」という袋がたくさんできる病気です。袋の中には体液がたまっています。みなさんの中には、腎臓にのう胞がある方もおられるかもしれません。腎臓にのう胞が1から数個できる事はよくあります。この場合の多くは「腎のう胞」で、のう胞が大きくなることは少なく、のう胞の数がどんどん増えることもありません。また、腎臓の働きに悪影響を及ぼすことはほとんどありませんが、定期的に超音波検査を受けてのう胞の大きさや数が増えていないことを確認することが大切です。腎臓を悪くすることが少ない腎のう胞に対し、多発性のう胞腎では、のう胞が年々大きくなることが多く、またのう胞の数も次第に増えるため、腎臓の働きが悪くなります。
この病気は家系内で遺伝することが多く、その結果、最初に記したように身内に腎臓病などが多くなります。多発性のう胞腎では、15歳頃までにのう胞が見つかる場合が多いと言われています。この病気は、腎臓だけでなく、肝臓やすい臓などにものう胞を作る場合があります。さらに、脳に動脈瘤(どうみゃくりゅう=血管のこぶのようなもの)ができやすくなる場合もあります。脳動脈瘤を放置するとくも膜下出血の原因になることがあるので注意が必要です。いろいろな臓器にのう胞ができるだけでなく、比較的若い時期から血圧が高くなる場合もありますので、多発性のう胞腎の患者さんは血圧の定期チェックが重要です。また、この病気の患者さんでは腎臓に石ができる腎結石になりやすかったり、のう胞の数が増えて腎臓が大きくなると、急性あるいは慢性にわき腹や腰が痛くなったりします。
腎臓にのう胞ができているかどうかは、超音波検査で比較的簡単にわかります。お腹にゼリーを塗って行う検査です。超音波検査でわかりにくい場合は、CTやMRI検査で調べます。多発性のう胞腎では、のう胞が大きくなったり数が増えたりすることが腎臓の働きを悪化させる主な原因ですので、のう胞の成長を抑制するお薬があればこの病気を治療することが出来ます。以前はそのようなお薬はなかったのですが、2014年から多発性のう胞腎の悪化を予防するお薬が発売されました。今では5,000人以上の患者さんにこのお薬が使われています。しかし、この病気があるのに診断されていない、あるいは、治療されていない患者さんが、治療中患者さんの何倍もおられると考えられています。ぜひ、これらの患者さんに治療を受けていただき、腎臓が悪くなることを予防していただきたいと思います。
腎臓が悪い方、身内に腎臓が悪い人が多い方、超音波検査で腎臓に3個以上ののう胞を指摘された方はぜひかかりつけ医を受診し、必要であれば腎臓病の専門医に紹介してもらってください。