飲み薬で禁煙

奈良県医師会 溝上晴久

喫煙が健康に害を与える事は誰もが知るところです。しかし、喫煙者の多くは喫煙が健康に害を与えると思いたくないので、喫煙と多くの健康被害との因果関係を認めようとはしません。

日本人のがんによる死亡のうち、男性34%、女性6%は喫煙が原因だと考えられています。特に肺がんは関連性が強く、男性68%、女性18%は喫煙が死亡原因だと考えられています。がん以外にも喫煙は、心筋梗塞・脳卒中・高血圧症・糖尿病・慢性腎臓病など多数の疾患と関連性があり、新型コロナ感染症の重症化リスクの一つにもなっています。また、喫煙者のみならず副流煙による周囲への健康被害も大きな問題となっています。

多くの喫煙者は「本当はやめた方がよい。出来ればやめたい」とも思っています。一般的な禁煙方法としては、根性論・禁煙本・禁煙ガム・禁煙キャンディー・電子タバコなどがありますが、いずれも失敗するケースが多いです。

現在、医師の指導の元で禁煙治療することが可能となっており、貼り薬のニコチンパッチと飲み薬のバレニクリンの2つの薬が保険適応となっています。禁煙成功率はニコチンパッチで約4割、バレニクリンで約6割と言われています。

現在もっとも多く使われている飲み薬のバレニクリンについて説明します。本来タバコがおいしいと感じる仕組みは、タバコを吸うとニコチンが脳の中にあるニコチン受容体にくっつき、ドーパミンという快感を引き起こす神経伝達物質が放出されるためです。バレニクリンはニコチンの代わりにニコチン受容体にくっつき、このドーパミンを少量放出することで禁断症状を和らげる作用があります。そして、バレニクリンがニコチン受容体にくっつき蓋をする事で、ニコチンがニコチン受容体にくっつく事が出来なくなり、その結果タバコを吸ってもドーパミンが増えることは無く、タバコがおいしくないと感じさせる作用があります。以上の効果でバレニクリンは禁煙をしやすくさせるのです。

内服期間は12週間、通院回数は初診を含め計5回となります。最初の1週間は薬剤量が少なく禁煙効果も弱いため、喫煙を継続したままでの服薬となります。2週目以降は薬剤量も増えて完全禁煙となります。主な副作用は吐き気です。特に女性に多い傾向があります。その他の副作用は、便秘・上腹部痛・変な夢をみる・不眠・眠気などがあります。

なお、次の方は内服が原則できません。

1)状態が安定していない精神疾患がある、2)重い腎臓病がある、3)妊娠中または授乳中である、4)未成年であるなどの場合―。

以前は紙巻たばこ使用者のみが保険適応でしたが、昨年から加熱式タバコ使用者も適応となりました。

禁煙治療にかかる費用は、3割負担の場合約2万円程度です。昨年10月からのたばこ税増税等に伴い、20本入り一箱当たり 約50 円の値上げとなっています。治療費は毎日20本程度の喫煙者ならたばこ代2か月分にも満たないです。今後もタバコの増税は順次予定されています。

また、禁煙年齢が若いほど寿命が延びるというデータもあります(例えば40歳なら9年、50歳なら6年、60歳なら3年)。自分や家族の健康、そしてお財布の健康のためにも是非禁煙をお勧めします。

なお、禁煙外来はほとんどの病院が予約制となっています。受診される場合は事前にお問い合わせされることをお勧めします。