奈良県医師会 中矢 雅治
子宮頸がんは高リスク型のヒトパピローマウイルス(以下HPV)が性的接触によって子宮頸部に感染し、その数年から十数年後に前癌病変(正常部よりも癌が発生しやすい形態に変化した組織)を経て発症する癌です。20~40代の若い女性でも発症する癌で年間11,000人以上の方が発症し、約2,800人の方が亡くなっています。他の先進国が予防接種の効果で子宮頸がん患者が減っているのに対し、日本だけが年々増加しています。このHPVは成人女性の約半数以上の方が感染するほど一般的なもので、誰でも子宮頸がんになる可能性があります。また日本における若い女性の子宮頸がんの検診率は低く、初めて妊娠した際に見つかることも少なくありません。早期発見ができなければ子宮摘出を余儀なくされたり、若くして命を落としたりすることも十分ある病気なのです。
子宮頸がんに関わるHPVのおよそ60-70%が16型、18型と言われています。日本で接種できるHPVワクチンは、この16型と18型を予防できるワクチンです。すべての子宮頸がんを予防できるわけではないので検診は必要になりますが、6割-7割は予防できると考えられています。これは毎年7,000人程度の方が子宮頸がんにならずに済み、毎年1,500人以上の方が亡くならずに済むということです。これが子宮頸がんワクチンの最大のメリットです。なお、海外で使用されているワクチン『ガーダシル9』は約9割のHPVを予防できるので、メリットはさらに大きくなります。日本でもようやく薬事承認がされましたので、数年以内に定期接種ワクチンとして組み込まれる可能性もあります。
日本では現在、小学校6年生~高校1年生までの女子が定期接種対象です。厚生労働省が積極的な接種勧奨をしていないので、通知が来ない地域も多いと思いますが、定期接種ですから高校1年生の3月までであれば無料で受けられます。ワクチンは計3回、筋肉注射にて接種します。高校2年生からは任意接種(3回で50,000円程度)となります。
一方で、HPVワクチンは接種後の副反応のことが問題視されました。これまでに日本で接種された方は約338万人、そのうち副反応疑いと報告された方は2,584人(約0.08%)おられます。多くの方は軽快または治癒し、症状が残った方は186人(約0.005%)です。症状としては、頭痛66名、倦怠感58名、関節痛49名、接種部位以外の疼痛42名、筋肉痛35名、筋力低下34名です。特に広範な筋肉の疼痛や運動障害を中心とする多様な症状を複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)と呼びます。このCRPSはHPVワクチンの接種有無にかかわらず一定数おられることは以前からわかっていました。名古屋市における女性7万人を対象とした疫学研究では、HPVワクチンを接種した人の発症頻度は、接種していない人と比較して有意に増えることはないと結論づけています。つまり統計学的(医学的)にはCRPSとHPVワクチンとの強い関連はないということになります。なお、日本産婦人科学会、日本小児科学会等も接種を強く推奨しており、ホームページに詳細なデータが載っております。よろしければ一度ご一読ください。