あなたの肩こりの原因は?

奈良県医師会 酒本佳洋

2019年の国民生活基礎調査によりますと、皆様の様々な自覚症状のうち、『肩こり』の有訴者率は男性で第2位、女性では第1位となっています。パソコンやスマートフォンを手放すことができない現代社会においては、おもわず納得のできる結果ですが、歴史をひもといてみますと、俚言集覧(りげんしゅうらん)という江戸時代の俗語辞典にはすでに、『五十腕(現在の五十肩と同義と思われます)』や『はやうち肩』という俗語が掲載されていました。江戸時代の日本人もまた、肩の痛みで苦しんでおられたようです。

さて、肩こりは万病の徴候ともいわれ、様々な疾患が原因でおこります。整形外科の領域では頸椎(首の骨)疾患や肩甲帯周囲筋の機能不全、いわゆる五十肩などでおこりますが、そのほかにも高血圧や狭心症、自律神経失調症、ストレス、メニエール病、眼精疲労、緑内障などでも生じ、顎関節症(あごの病気)に至っては半数以上で肩こりが認められるとの報告もあります。本稿では、整形外科領域の疾患についてもう少し述べてみたいと思います。

頸椎の疾患では頸椎椎間板ヘルニアや頚椎症などがあります。椎間板ヘルニアでは、背骨同士をつなぐクッションの役割をしている椎間板が後ろに飛び出して神経を圧迫することにより、肩から腕にしびれや痛みが生じます。頸椎を後ろにそらせた際にしびれや痛みが増強するのが特徴です。頚椎症は中年~高齢の方に多く、頸椎の変形によりできた骨棘(こつきょく:骨のでっぱり)が神経を圧迫することにより、同様の症状が出ます。大半の場合、局所安静と疼痛(とうつう)治療剤の服用やブロック注射、牽引(けんいん)治療などのリハビリにより自然治癒することが多いのですが、筋力低下を伴う場合や著しい痛みが続き日常生活に支障が生じる場合、手術になることもあります。

肩甲帯周囲筋の機能不全では、なで肩や姿勢異常(猫背・前かがみ)、運動不足などが原因になっていることが多く、肩周辺の筋肉や背筋のストレッチや筋力強化が必要となります。そのほか日常生活では、筋緊張の予防のために同じ姿勢を長く続けない、局所を温めて血行を良くするなどの肩こり予防を習慣づけることが大切になります。

いわゆる五十肩は、肩関節を構成する骨、軟骨、靱帯や腱などの加齢変性により周辺の組織に炎症が起きることが原因で生じると考えられています。時には関節包(関節を包む袋)が癒着したり縮んだりして肩関節の動きが悪くなることもあります。よく、関節がかたくなると困るのでどんどん動かし(可動域訓練)、その結果余計に痛みがひどくなる方がいらっしゃいます。しかし痛みの強い急性期には、まず局所安静が大切で、お薬や注射などで痛みと炎症をある程度やわらげ、急性期を過ぎてから可動域訓練をして順に治してゆくことが大切です。

以上のように、肩こりにはたくさんの病気が隠れている可能性がありますので、まずは病院を受診していただき医師にご相談ください。