奈良県医師会 松村榮久
新型コロナウイルスワクチン接種が2月17日より医療従事者から順次始まっています。4月12日より65歳以上の高齢者の接種が開始され、続いて基礎疾患のある方や高齢者施設の従事者、その後一般の方々という予定です。現時点で明らかになっていることを踏まえながら、ワクチン接種の意義を説明しましょう。
わが国ではファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社の3種類のワクチンの導入が予定されていますが、現在唯一認可され使用されているファイザー社のワクチンについて説明します。このワクチンは、新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク(表面の“殻”の突起でヒトの細胞に侵入するための “トゲ”)の設計図となるRNAを注射します。ウイルス複製に必要なRNAではないので、注射によってコロナウイルスがヒトの細胞で増殖したり、ヒトの遺伝子に組み込まれるような心配はありません。
接種対象は16歳以上で、21日間隔で2回の筋肉注射を行います。米国での報告では発症予防効果は約95%でした。これはワクチンを接種しない場合と比べ発症する人はわずかに5%、すなわち20分の1になることを意味しています。発症予防効果95%は、はしかワクチンの初回接種に匹敵し、極めて高い数値です。またワクチン接種の方が自然感染に比べて予防効果が高く、すでに感染して治癒した人に対してもワクチン接種が勧められます。
よくある副反応として、注射部位(肩の三角筋)の痛みや腫れが80-90%、全身症状(倦怠感、頭痛、筋肉痛、発熱など)が50-80%です。症状は軽度で通常2日以内に自然軽快します。頭痛、発熱、筋肉痛に対してはアセトアミノフェンなどの鎮痛解熱剤を服用しても良いです。
重大な副反応として、まれに注射に伴うアナフィラキシー(急速に進行するアレルギー反応で①じんま疹や粘膜の腫れ、②息苦しさや喘息様症状、③腹痛や嘔吐、④血圧低下や意識レベル低下の①~④のうち2つ以上)がおこることがあります。現在接種中のわが国の医療従事者では1万回に1回程度の発症で、適切な処置により全員が回復しています。アナフィラキシー反応の大半が接種後15~30分以内に生じているため、その間は接種会場での待機が必要です。
新型コロナウイルス感染に終わりが見えない中、ワクチン接種は感染流行の終息に有効な手段として、大きな期待が寄せられています。肥満、高血圧、糖尿病、慢性の心臓・腎臓・肺疾患などの基礎疾患がある方は感染した際に重症化しやすく、特にワクチン接種が勧められます。海外のイスラエルでは世界に先駆けてすでに人口の95%以上にワクチン接種を行い、感染者の激減が報告されています。接種率が人口の60%を越えれば、接種した本人だけではなく、接種していない人の感染率も下がる(集団免疫といいます)ことが期待されています。国民一人一人が正しい知識を共有し、ワクチンが広く接種され、新型コロナウイルス感染症が終息に向かうことを願っています。