奈良県医師会 久保良一
下肢静脈瘤とは足の血管がふくれて太くなり、網目状やこぶ状に浮き上がって見える身近な血管の病気です。日本の患者数は1000万人以上とされ、また女性が男性に比べ2~3倍多く、妊娠出産経験のある女性の約半数に発症すると報告されています。
人の体には、血液が流れる二種類の血管である動脈と静脈があります。心臓から体全体に血液を送る血管を動脈と呼び、体のすみずみまで送られた血液を心臓まで戻す血管が静脈です。
足の静脈内の血液が心臓に戻るには、足の筋肉が収縮してポンプの役目をし、重力に逆らって心臓のほうに血液を流し、戻す必要があります。そのため静脈中には、静脈弁といわれる血液の逆流を防ぐ弁があります。
しかし、何らかの原因で弁の機能が壊れると、血液が逆流するため戻りにくくなります。そして静脈圧が上昇し、体表に近くて細い静脈がふくれ、蛇行してこぶになり下肢静脈瘤ができます。通常、下肢静脈瘤は徐々に進み、命に関わる危険性がない病気ですが、血流障害の程度に応じて症状が現れます。
下肢静脈瘤は40歳以上の女性に多く、年齢では50~69歳で約60%、75歳以上で75%と増加し、加齢で静脈壁や弁の機能が低下すると出現しやすくなります。妊娠出産や、肥満、長時間の立ち仕事が発症に関与し、また両親に静脈瘤がある場合にも発症率が高くなります。
症状は、足が疲れやすい、だるい、腫れやむくみ、痛い、痒い、こむら返りなどがありますが、進行すると皮膚炎や皮膚が黒っぽく変色したり、また重症になると難治性の下肢腫瘍(かいよう)が起こることがあります。
診断は、診察で静脈瘤の形や、大きく盛り上がる伏在(ふくざい)静脈の有無、静脈のクモの巣状や網目状変化などを見ます。そして静脈瘤の部位や障害の程度を見るためには、主に超音波血管エコー・ドップラー検査を行い、血管拡張、血液の逆流や範囲を観察し、必要ならMRIやCTも併用し、治療方針を決定します。
基本的には日常生活で、静脈瘤の悪化因子である長時間の立ち仕事を控えるよう指導し、下肢マッサージや皮膚症状には、保湿や清潔に保つスキンケアを行い、また静脈血流を改善するために、圧迫効果のある弾性包帯や弾性ストッキングを着用します。
そして静脈瘤の状態を判断して、外科的手術を行います。それには硬化剤という薬を静脈に直接注入する方法(硬化療法)や、皮膚を切開して逆流している静脈を糸でしばる方法(高位結紮=こういけっさつ=手術)、静脈瘤の原因となっている血管にワイヤーを通して抜去切除する方法(ストリッピング手術)などがあります。また最近では血管内焼灼術といわれ、静脈内にカテーテルを入れ、レーザーや高周波の熱で静脈を縮ませ血流を遮断する方法が新たに開発され、外科的手術の第一選択となりつつあり、下肢静脈瘤の治療は大きく変化しています。
下肢静脈瘤は状態を正確に診断することが重要です。下肢静脈瘤の外見的変化で美容にお困りの方や、症状が気になる方は、是非血管外科・下肢静脈瘤専門医を受診され、ご自身の静脈瘤の病態に応じた治療をご相談されることをお勧めします。