奈良県医師会 池田 富一
日本では、成人の5人に1人、60歳以上では3人に1人が不眠の症状があるといわれています。高齢者になるほど眠りの質が低下するとともに、徐々に睡眠の必要量が減ってくるためです。60歳以上になると、次のような特徴が現われてきます。
- 寝つきが悪くなる
- 眠りが浅くなる
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝早く目が覚める
- 眠りの時間帯が早くなる
若い人では、就寝後10分ほどで浅い眠り(ノンレム睡眠の段階1と2)から深い眠り(ノンレム睡眠の段階3と4)へ移行し、段階4まで進むのに30分ほどしか、かかりません。一方、高齢者は入眠まで40分ほど要し、睡眠の段階は4まで進まずに段階2あたりでとどまり、深い睡眠が減少します。
高齢者の不眠の直接の要因につぎの4つがあります。
- 運動量が減り、消費するエネルギーが少なくなることで、必要とする睡眠量が減ってきます。
- 睡眠を促す働きのあるホルモン「メラトニン」の分泌量が減少します。
- 人間の体温は、起きる直前から徐々に上昇し、就寝直前に最も高くなります。そして、寝ている間に下がっていきます。ところが、加齢に伴って1日における最高体温が低くなり、就寝中に体温を下げるために要する時間が短くなって、睡眠時間が減少します。
- 高齢になると体温の変動サイクルが前にずれます。このために、体温の上昇の時間帯が早まり、朝早くに目が覚めるようになります。
高齢者の不眠の間接的な要因としては、①持病(関節痛、認知症、うつ病)、②頻尿(ひんにょう)、③睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)、④薬の服用(降圧剤:こうあつざい、利尿剤:りにょうざい、喘息薬:ぜんそくやく)、などがあります。
眠りを改善する方法としては、効果的な入浴、適度な運動、過剰に昼寝をしない、カフェインを摂取しないなどがあります。
高齢者の睡眠薬は非ベンゾジアゼピン系が適しています。作用時間が短く、脱力を起こして転倒する人が少ないからです。
不眠でお悩みの方は一度、主治医にご相談ください。