冠攣縮性狭心症

奈良県医師会 岩井 務

一般に狭心症は、運動等で体を動かした時に起きる「労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)」と、安静時に起きる「安静時狭心症(あんせいじきょうしんしょう)」とに分類されます。

冠動脈(心臓の筋肉を養なっている血管)が動脈硬化により狭くなり、運動をした時などに心臓の筋肉に充分な酸素が供給できず起きるのが「労作性狭心症」です。一方で、夜間、早朝の安静時に冠動脈が痙攣により狭くなり、心臓の筋肉に充分な酸素を供給できずに起きるのが「冠攣縮性狭心症」です。

日本人は欧米人に比較して冠攣縮性狭心症が多いと言われています。自覚症状は、狭心痛といわれる胸の痛みもありますが、胸がしめつけられる、胸の中が焼けつくといったような「胸部絞扼感(きょうぶこうやくかん)」や「胸部圧迫感」、「胸部重圧感」等として訴えられることが多く、出現場所も胸部のみとは限らず、肩(特に左肩)、背中、首、頬、歯、後頭部、みぞおち等に出現することもあります。症状の持続時間は、労作性狭心症では多くが数分以内に消失するのに対し、冠攣縮性狭心症の場合は症状の程度が強く、持続時間も数分~30分も続き、冷汗、吐き気、嘔吐(おうと)、排便、さらに意識消失を伴うものまであります。

冠攣縮性狭心症の原因はいろいろありますが、ひとつには、冠動脈中の血液の流れに応じて血管を拡張させたり、血小板の凝集や血液の凝固を抑える作用を有する一酸化窒素(NO)の冠動脈壁からの合成・分泌が、冠動脈中の良好な血液の流れを保っています。しかし、年齢により冠動脈壁の機能が低下し、NOの合成・分泌も低下することによって冠動脈が収縮しやすくなり起こるといわれています。

冠攣縮性狭心症の診断は、24時間心電図検査で発作中の心電図所見を確認することですが、24時間心電図検査中に発作が出現するとは限らないので、厳密には心臓カテーテル検査時に薬物(アセチルコリンやエルゴノビン)による冠動脈の発作誘発試験を行います。冠攣縮性狭心症の治療は、発作時にニトログリセリンを舌下投与(ぜっかとうよ:舌の下に薬を置き、舌の血管に直接浸透させる薬の飲み方)することや、発作予防に高血圧薬であるカルシウム拮抗薬(きっこうやく)を内服することです。また冠攣縮性狭心症に特徴的な危険因子は、喫煙、アルコール多飲、ストレスや寒冷等ですので、禁煙、禁酒、ストレスや冬場の寒冷回避が必要です。