奈良県医師会 北村 博
うつ病には様々な分類があり、それに応じて治療の仕方も異なるため、正しい診断が是非とも必要です。
まず、最も古典的でかつ有名な「大うつ病」について説明します。患者さんは気分が塞ぎ、疲れやすく、何事にも興味を失い、それが自分のせいだと感じたり、また自分は取るに足らない存在だと思い込み、極端になると自殺まで考えます。更にそんな状況が一生続くのだという誤った認知にとらわれていきます。性格的には几帳面、完全主義的傾向を持ち、責任感の強いタイプと言われています。このタイプの人はとことん自分を追い詰めてしまうので、時として休養する事が必要になるのですが、多くの場合、休養する事にも罪悪感を抱き、周囲の説得にも抵抗しがちです。
治療としては、抗うつ剤を主とした薬物療法(最近は眠気、口の渇き等の副作用の少ない薬が使われています)、患者さんの気持ちに共感し支持する精神療法、根拠もなく悲観してしまう認知の歪みを正す認知療法等があります。また家族には、励まさず、ゆったりと見守り、旅行や外出など無理に気分転換をさせない事をお願いし、患者さんには退職や離婚など重大な決断をしない事や、自殺をしない事を約束してもらいます。
次に、最近話題になっている「現代型うつ病」について。従来よく用いられてきた「三環系」と呼ばれる抗うつ剤は殆ど効果がなく、過眠や過食を呈したり、性格的には自分を責めるというより他罰的傾向が強く、自尊心が高く、怒りを抱きやすいタイプです。現代社会の不安定さや両親との葛藤が背景にあるといわれています。つまり「ここまですれば(例えば高学歴や大企業への就職)安心できる」という境界が失われ、組織への帰属意識(きぞくいしき)や仕事上の役割分担意識が希薄(きはく)になってしまうのです。患者さんは趣味の世界なら十分楽しめるのですが、休職や入院が必ずしも有益とは限りません。
治療として薬は補助的に使用し、起床、食事、活動、就床の時間を一定にして日常生活のリズムを整えることが重要になります。
このように、重症でなくても治りにくいうつ病が増えているのも要注意です。