亜鉛不足と味覚障害

奈良県医師会 溝上晴久

味覚は、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の5味から成っています。そのどれか一つでも欠けると、美味しく食事ができなくなります。特に甘味や塩味が分からなくなると、カロリーオーバーや塩分過剰摂取の原因となります。

最近、味覚障害を訴える人が増えてきています。特に、中高年の女性に多い傾向があります。原因として、「亜鉛摂取不足」「薬の副作用」「全身疾患(糖尿病、肝臓疾患、腎臓病、胃腸疾患など)」「口腔疾患(ドライマウスなど)」「心因性ストレス」「鉄欠乏性貧血」などがあります。この中で「薬の副作用」と「全身疾患」については、亜鉛の吸収低下や亜鉛の排泄増加などが考えられています。味覚障害の半分以上は亜鉛不足が関係しているのです。

味覚を感じるのは、口腔内、特に舌表面に多くある味蕾(みらい)という小さな器官です。味蕾の中には味細胞という味覚センサーがあり、この味細胞は新陳代謝がとても速く、約1カ月毎に生まれ変わっていきます。この味細胞の再生には亜鉛が必須なのですが、亜鉛は体内で合成したり、蓄えたりできないのです。

1日の亜鉛摂取推奨量は、成人男性で10mg、成人女性で8㎎となっています。ところが、最近は過度なダイエット、ファストフードや加工食品の摂りすぎなどが原因で、亜鉛摂取不足となっている人が増えています。また、過度な運動も亜鉛不足をまねく事があります。

前述した様に、「薬の副作用」も亜鉛不足の大きな原因となっています。主なものとして降圧剤、利尿剤、解熱鎮痛剤、抗菌剤、糖尿病治療薬などがあります。一般の薬局で売られている薬にも、亜鉛不足をまねくものが多数あります。ただし、味覚異常がある場合でも自己判断での服薬中止はせず、必ず主治医や薬剤師とよく相談してください。

亜鉛を多く含む食品は、牡蠣・鰻などの魚介類、豚レバー・牛赤身などの肉類、カシューナッツ・大豆などの豆類などがあります。

亜鉛補充するための薬としては、亜鉛含有胃潰瘍治療薬のポラプレジンク、低亜鉛血症治療薬の酢酸亜鉛水和物製剤の2つがあります。

逆に亜鉛の過剰摂取が、健康に悪い場合もあり注意が必要です。亜鉛の過剰摂取が原因で銅欠乏症、鉄欠乏性貧血、胃腸障害(吐き気など)、血清膵臓酵素上昇などが起こる事があります。

血液検査をすることで生体内の亜鉛濃度を調べる事もできます。味覚障害は自然に治る事も多いですが、長く続く方は一度耳鼻咽喉科もしくは内科でご相談ください。

なお皆さんもご存じのように、新型コロナウイルス感染でも嗅覚・味覚障害が起こる事があります。もし急に味覚障害が出てきた場合は、新型コロナウイルス感染症を否定できません。この場合は、周囲への感染防止のため医療機関を直接受診する前に、必ず「新型コロナ・発熱患者受診相談窓口」や「かかりつけ医」などに電話でご相談ください。