奈良県医師会 北村 博
「統合失調症」は、以前は「精神分裂病」と呼ばれていましたが、不適切な用語として改訂されました。この病気では、幻覚(げんかく)や妄想(もうそう)という症状が多く出現します。
例えば「誰かに見張られている」、「部屋に盗聴器を仕掛けられた」という妄想や、「スピーカーを使って誰かが大声で自分の悪口を叫んでいる」などの幻聴(げんちょう)が主なものですが、それに対応する形で独り言を言ったり、ニヤニヤ笑ったり、或いは怒ったりすることがあります。
なお最近では減りましたが、奇妙な姿勢を保持したり、しかめっ面をすることもあります。それと、定職に就かず放浪を繰り返す人たちの中には、この病気が関与している可能性もあります。つまり統合失調症には様々な類型があるのです。
しかし、病の初期ではほぼ共通した症状として、世界が今までと違うと感じたり、自分が自分でないという感覚が生じるため強い不安に襲われ、ひきこもろうとします。その結果、従来は出来ていた仕事や家事遂行が不可能になってしまいます。そしてこの時期には、家族を含めて周囲の人は、単なる「うつ」や「ひきこもり」、「ストレス」が原因だろうと判断してしまうことがしばしばあります。
更に困ったことに、大抵の場合、本人が自主的に病院を受診しようとは言いません。何故なら、自分自身の境界(自我境界:じがきょうかい)が不明瞭になるため、外界から攻撃を受けやすいと思う気持ちが強まるのと、何となく自分が異常かも知れないと疑う気持ちが混在しているので、受診することは自分にとって危険な状況だと察知するようです。
治療は外来通院で薬物療法が可能ですが、自分や他人を傷つける恐れがある場合は入院が必要です。また本人が病気であるという自覚が無いうちは、服薬や受診を拒否することがあり、家族や知人の援助が不可欠になります。最近は副作用の比較的少ない薬が開発され治療成績も向上し、普通に日常生活を送る患者さんも珍しくありません。
また、治療等にかかる経済的負担を軽減するために、障害者自立支援法や障害年金を利用するのも一つの方法です。詳しくは市役所等の福祉課や精神科のある施設で相談してください。