奈良県医師会 中垣公男
日本で腰痛の人は約3000万人いると推計されています。原因が特定できる腰痛は全体の約15%で、残りの約85%は原因がわからない腰痛です。原因を特定できる腰痛のうち、腰痛全体の約10%を占めるのが、腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなど腰の神経が障害されて起こるものです。また全体の約2%は、膵炎(すいえん)、尿路結石、腎盂腎炎(じんうじんえん)、十二指腸潰瘍、子宮内膜症など内臓の病気です。
腰痛の危険度を確認してみましょう。じっとしていても痛みがある場合、重症の脊椎の病気や内臓の病気の可能性が考えられるため、危険度は大です。前屈みになってくる場合は圧迫骨折が起きている可能性があります。下肢が痛んだり、しびれて長く歩けない場合、腰部脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアなど、腰の神経が障害されている可能性があります。20歳以下や55歳以上の方で胸部痛を伴っている場合や、癌、ステロイド治療、HIV感染の既往がある方など、体重が減っているときや発熱しているときも危険です。このような場合は、一度医療機関を受診することをお勧めします。体を動かしたときだけ腰痛がある場合、腰の関節や筋肉などが原因である可能性が高く、大きな危険はありません。ただし、症状が悪化した場合や、3ヵ月以上症状が続く場合は、整形外科を受診することをお勧めします。
急に起こった腰痛の発症直後の対処法を述べます。「膝を軽く曲げて横向きに寝る」、「あおむけに寝て、ひざを軽く曲げて、膝の下にクッションを入れる」などの姿勢が勧められます。以前は、腰痛がある間は、安静にすることが重要だと言われていました。しかし、ずっと動かないでいると、腰痛との関係が深い「背筋」が衰えてしまい関節が固くなるため、回復が遅くなることがわかってきました。したがって、発症から2~3日後に痛みがやわらいでから、少しの痛みを堪えて、動いたほうが早く治ります。鎮痛剤の内服も効果的です。
長く続いている腰痛は、次のような対策をとると効果が期待できます。
1.軽い運動を行う
ウォーキングやスイミングのような適度な運動を行うと、脳の血流がアップし、脳の中で痛みを抑える物質が増えてきます。
2.できる範囲で通常の生活を続ける
3.中腰の姿勢をできるだけ取らないようにする
4.ストレスをためないようにする
自分が楽しいと感じることを行うと、脳の血流がよくなって痛みを抑える物質が増え、痛みが軽減して楽になります。たとえばスポーツをしたり、好きな音楽を聴いたり、好きな映画を観たり、アロマオイルなど好きな香りを楽しんだり、生活の中にリラックスできる時間をつくることが重要です。