奈良県医師会 中矢雅治
高齢者のワクチン接種が概ね進み、今後は若い世代のワクチン接種を進めていくことが課題となります。高齢者と比較すると、COVID-19による重症化率・死亡率が低い若い世代はワクチンのメリットが少なく感じられますし、発熱や頭痛、倦怠感、下痢などのワクチンによる副反応が多いのも事実です。それでは何故、若い世代の方々にもワクチン接種が必要とされているのでしょうか。
まずCOVID-19が今後数十年は世界から無くならない可能性が高いということを知る必要があります。感冒やインフルエンザ、RSウイルスが世の中から無くならないのと同様、無症状者や軽症者が多いCOVID-19を世の中から根絶することは非常に困難なのです。今は感冒として扱っている4種類のコロナウイルスも、初めて人から人へ感染するようになったときは新型だったのですが、宿主(人)が感染することで免疫を持ち、いつしかほとんど重症化しなくなったものなのです。たとえCOVID-19を日本で一度は根絶できたとしても、今後何十年も海外からの渡航を制限してウイルスを完全に遮断することは難しいでしょう。ウイルスが無くならない可能性が高い以上、共存していくことになります。COVID-19から逃げ続けることが難しいのですから、ワクチンを接種し中和抗体を獲得しない限り、一生のうちいつかは感染するということです。ワクチン接種を受けて中和抗体がある人にとっては重症化をかなり抑えられますが、抗体がない人にとっては一生、重症化リスクがある新型コロナウイルスであり続けるのです。
2つ目の理由としては、感染することによる多くの不利益を減らすことができます。受験や大切な行事などの時期に隔離されてしまうことや、周囲の方を濃厚接触者にしてしまうことを減らすこともできます。
3つ目の理由としては、ワクチンによる集団免疫を獲得できれば、マスクをはずして日常生活に戻すことができるということです。ワクチン接種を受けない限りこの生活が続いてしまうのであれば、集団免疫を獲得するという目的だけでも、若い世代が接種する意義があると考えられるでしょう。
ただワクチン成分に強いアレルギーがある方や免疫を極端に抑える治療をしている方などは接種できないため、接種したい方が全員接種できるわけではないことも留意する必要があります。
一方、気になる点としてはやはり副反応でしょう。特に2回目の接種後の発熱は3~4割程度はあることを知る必要があります。ただし多くの方は1~2日で解熱すること、早期にアセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンナトリウムなどの解熱鎮痛剤を使用することで症状はかなり改善するということも併せて知っておくべきでしょう。また約0.003%程度の頻度でアナフィラキシーの報告はありますが、接種後しっかり経過観察することで対応できています。そしてもう一点、予防接種と直接関連があるかどうかはまだはっきりとしていませんが、心筋炎の報告が上がっていることには少し注意が必要です。ただしその頻度は約5800万回の接種で20人とかなり稀であること、心筋炎を発症しても入院での経過観察で全員が回復されているということは、ワクチン接種を選択するうえで安心材料と言えるでしょう。
以上の点をふまえた上で、若い世代の方々の新型コロナウイルスワクチンを接種されるかどうかを判断していただければと思います。