奈良県医師会 溝上晴久
睡眠は、食事・運動などの生活習慣と同様に健康と深く関わっています。
日本人の睡眠時間は年々減少傾向にあり、成人の10人に1人は不眠症といわれています。加齢とともに不眠は強くなる傾向にあり、60歳以上では3人に1人が不眠で悩んでいます。
不眠が続くと日中の眠気以外にも、様々な症状が出るようになります。主に倦怠感、集中力低下、頭痛、めまい、食欲低下などがあります。最近では、生活習慣病やうつ病の発症リスクが高くなることも分かっています。
不眠の原因は次のように様々です。
1)加齢
2)心因性ストレス
3)生活リズムの乱れ
4)こころの病気(うつ病など)
5)からだの病気(睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群、周期性四肢運動障害など)
6)薬剤性不眠(降圧剤、ステロイド剤、抗うつ剤など)
7)刺激物(カフェイン、喫煙、過度の飲酒など)
8)不適切な寝室環境
うつ病や睡眠時無呼吸症候群などのように原因が明らかな場合は、まずその疾患の治療を行うことで改善します。しかし、ほとんどの方は、はっきりした原因が分からず不眠となっています。
不眠に対する改善方法としては次に挙げるものがあります。
1)起床時間は同じに(夜更かしした時や休日も同じ時間に起きる)
2)眠くなってから寝床へ(眠気なく寝床へ入ると、寝つきに時間がかかったり、中途覚醒が増える)
3)昼寝は15時までに短時間で(長時間の昼寝は不眠を悪化させる。15時までに30分以内)
4)朝に太陽の光を浴びる(強い光を浴びて体内時計をリセットする)
5)適度な運動(午前より午後に軽い運動をする方がよい)
6)就眠前の入浴はぬるめ(熱いお風呂は交感神経を活発にする)
7)快適な寝室環境(静かで暗く、適度な室温・湿度)
8)寝酒はしない(過度な飲酒は睡眠が浅くなり、中途覚醒を増やす)
9)就眠直前の喫煙は控える(ニコチン摂取は、交感神経を活発にする)
10)夜のカフェインを控える(夕食後のコーヒー、栄養ドリンクなどは控える)
11)寝る前スマホは禁止(スマホ、パソコンなどの光りは交感神経を活発にする)
これらの方法を試しても改善しない方は、精神科・心療内科でのカウンセリングおよび内服治療が必要となってきます。
内服薬としては、ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主として用いられますが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬にはふらつきや転倒、依存性などの副作用があり、特に高齢者には注意が必要です。
後に開発された非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ふらつきや転倒の危険性は低く、依存性も少なくなっています。それに加え、睡眠が深くなるというよい効果もあります。欠点としては、現在販売されている非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はすべて超短時間作用型であるため、内服後数時間の行動記憶がなくなってしまう“健忘”という副作用が出やすくなることです。
近年、効果はやや弱いものの、ふらつきや依存性、健忘などの副反応が出にくい、より安全な睡眠薬も出ています。
体内時計を調節するホルモンであるメラトニンの受容体に作用して効果を出す「メラトニン受容体作動薬」、脳内の覚醒ホルモンであるオレキシンの作用を抑えて効果を出す「オレキシン受容体拮抗薬」の2種類です。これらは単独での使用が基本ですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を内服している方が、減薬・休薬したい時に併用して使用する方法もあります。
このように現在は様々な薬があり、睡眠薬は適正に使用すれば怖い薬ではありません。強い不眠症は体や心を少しずつむしばんでいきます。なかなか寝付けない、熟睡感がないなどの睡眠障害があれば、一度専門医に相談しましょう。