糖尿病 -その食事で大丈夫ですか-

奈良県医師会 溝上晴久

日本をはじめ世界的にも糖尿病人口は年々増えており、日本人では成人の6人に1人が糖尿病及びその予備軍となっています。糖尿病の治療には食事療法・運動療法・薬物療法の3つの柱がありますが、その中で最も大事なのが食事療法です。そして、最も難しく手間がかかるのも食事療法です。

世間ではさまざまなダイエット方法が話題になりますが、そのほとんどが栄養バランスを無視したもので、継続すると健康上むしろ危険なものも見受けられます。糖尿病食は「過剰な糖質制限」でも「極端なカロリー制限」でもありません。

糖尿病の食事療法で最初にするべきことは、1日の必要な摂取カロリーを知ることです。

摂取カロリーは1日の運動量によって大きく変わります。普通の労作(立ち仕事、軽い歩行など)では、標準体重(注1)に対して30kcal/kgとなります。例えば標準体重が60kgの人は60×30=1800kcal/日となります。

軽い労作(事務職、高齢者など)では25kcal/kg、重い労作(力仕事など)では35 kcal/kgとなります。

ただし、極端なやせ型の方や80歳以上の高齢者の方に関しては、無理なカロリー制限はせず、薬物療法も併用した十分なたんぱく質を含んだカロリー摂取が大事な場合もあります。

次に大事なのは、バランスよく栄養をとることです。

三大栄養素であるタンパク質、脂質、炭水化物だけで見ると、日本人の摂取量は平均的にはバランスがとれています。

しかし問題となるのは、皆さんが太るイメージを持っている炭水化物の内訳です。

炭水化物は大きく分けると、吸収されエネルギー源となる「糖質(ご飯・パン・麺類など)」と、ほぼ吸収されない「食物繊維(野菜・きのこ・海藻類など)」の二つに分けられます。そして日本人が摂取している炭水化物の多くが糖質であり、食物繊維摂取量が大変少ないのです。

食物繊維は糖質と異なり、肥満に関しては抑制効果もあり、むしろ積極的に摂取する事が勧められています。糖質を減らし、食物繊維を増やす事が栄養バランス上とても大事なのです。そして、いかにして実践していくかです。

次にいくつかポイントを説明していきます。

  1. 食事は毎日3食とる(食事回数を減らすと栄養が脂肪として蓄積されやすい)。
  2. 寝る前2時間は食べない(寝る前は食後のエネルギー消費が少なく、脂肪として蓄積されやすい)。
  3. ビタミンやミネラルも含めた多くの種類の食品をとる(「糖尿病食事療法のための食品交換表」などを参考にする)。
  4. 野菜やたんぱく質を先に食べる(糖質を後にすることで急な血糖上昇を軽減できる)。
  5. ゆっくり、よく噛んで食べる(急な血糖上昇を軽減でき、満腹感も高まる)。
  6. 洋食よりも和食を多く(洋食は高カロリー・高脂肪となりやすい)。
  7. 薄味にする(味付けが濃いとご飯などの主食を食べ過ぎてしまう)。
  8. アルコールは少なく(アルコールはカロリーが高く、食欲増進効果もあるためカロリーオーバーとなりやすい)。

これ以外にも色いろいろと食事のコツがありますが、実際、糖尿病のための特別なメニューはありません。食べてはいけないものもないのです。

基本は30種以上の食品を栄養バランスよく、適切なカロリー量で摂取する事です。この食事療法の考え方は糖尿病患者さんだけではなく、本来健康な方にも当てはまることです。家族の方とも一緒に今日からさっそく取り組んでみましょう。

 

(注1)標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22