奈良県医師会 赤井靖宏
2021年は糖尿病にとって記念すべき年です。インスリンが発見されてから100周年を迎えたのです。膵臓からインスリンが急に出なくなる1型糖尿病患者さんにとって、インスリンは命を救う画期的なお薬です。それから100年が過ぎ、糖尿病のお薬は飛躍的に進歩しました。特に2000年を過ぎたころから、新たな仕組みで血糖をコントロールできるお薬が発売されました。今後は、糖尿病になっても早く治療を開始すれば、合併症を起こさずに健康長寿を達成できる場合が多くなると思われます。
今や、わが国は国民の10人にひとりが糖尿病になっている時代を迎えています。日本人は肥満でなくても糖尿病になる方が多いと言われており、糖尿病はだれもがなる可能性がある病気です。日本人の中でも、糖尿病に特に注意しなければならない方がおられます。
①高齢者:高齢になるほど糖尿病になりやすくなります。最近は、高齢になって甘いジュースやコーラをよくのむようになり、知らぬ間に糖尿病になっておられる方を診ます。
②遺伝的・体質的に糖尿病になりやすい方:家族や親族に糖尿病が複数人おられる方は注意が必要です。
③20歳の時に比べて体重が大きく増えた方:20歳時に比べて体重が増え、ウエストが大きくなった方は糖尿病になりやすいと考えられます。
④生活習慣が乱れている方:特に、食べ過ぎや運動不足で体重が増えている場合は要注意です。
⑤女性で妊娠中に糖尿病を指摘された方:出産後に血糖値が正常になったとしても、10年後、20年後に糖尿病になりやすくなることが知られています。このような場合は、必ず定期的に健診などを受けて、知らぬ間に糖尿病になっていないか調べる必要があります。
糖尿病になってしまった場合の目標は、血糖値を一刻も早く適正な値に維持し、糖尿病でない人と同じような健康長寿を達成することです。このためには、糖尿病と診断されたらできるだけ早く治療を開始することが大切です。がんが初期の段階で見つかれば、一刻も早く治療してほしいと言われる方が多いのですが、糖尿病の初期と診断された場合は、食事や運動でなんとかなると考えて、お薬をのむことに積極的になっていただけない場合が多いです。糖尿病はよくある病気ですが、血糖値が高い状態が続くと知らぬ間に合併症が進行し、とても怖い病気になってしまいます。どんな病気も、早期診断・早期治療が大切です。糖尿病も例外ではありません。糖尿病のお薬はのみ始めたら一生のまなくてはならないと思っておられる方が多いと思いますが、早く治療を開始すると、お薬を減らしたりやめたりすることも可能です。最近は、血糖コントロールをすることに加えて、合併症を予防したり命を護ったりするお薬がでてきました。この医学の進歩をぜひみなさんに活用していただきたいのです。
糖尿病でお薬をのむように勧められた場合には、お薬をのんで早く血糖コントロールを改善してください。合併症を予防して「糖尿病でも健康長寿」を達成しましょう。