奈良県医師会 中谷真士
予防接種とは、毒性を弱めた病原体(ウイルスや細菌)や毒素そのものを前もって投与しておくもので、その病気に罹(かか)ることを予防したり、人に感染させてしまうことで社会に病気が蔓(まん)延してしまうのを防ぐことを目的としています。また、病気に罹ったとしても重症化を防げる場合があります。
その種類には、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイド、遺伝子組み換え型ワクチンなどがあります。
生ワクチンは、生きた細菌やウイルスの病原性を弱くしたもので、はしか、風疹、水ぼうそう、帯状疱疹、おたふくかぜ、BCGなどのワクチンがあります。
不活化ワクチンは、ホルマリン処理などでその毒性をなくしたもので、インフルエンザ、日本脳炎、肺炎球菌ワクチンなどです。
そしてトキソイドは、細菌が作る毒素の毒性をなくしたもので、破傷風などがあります。
投与回数に関しては、生ワクチンは1回接種で有効とされておりましたが、現在は2回接種が勧奨されています。それに比べて不活化ワクチンやトキソイドは、抗体が出来にくく2~4回の接種に加えて追加接種が必要です。
接種間隔は、注射の生ワクチンを続けて接種する場合のみ27日以上あけますが、それ以外は制限なしということに最近改定されました。
また予防接種には、定期接種と任意接種というものがあります。
定期接種は公費で受けることができ、主に集団予防に重点が置かれているA類疾病(結核、はしか、風疹、日本脳炎、ポリオなど)と個人予防に重点が置かれているB類疾病(高齢者のインフルエンザや肺炎球菌など)に対するワクチンがあります。
任意接種は自己負担となるもので、おたふくかぜ、高齢者以外のインフルエンザワクチンなどがあります。
効果に関しては様々で、その持続期間にも個人差がみられます。また、まれに重大な副反応がみられることもあります。そのため義務ではありませんが、やはりメリットの方が多いと考えられるので、接種することが望ましいと思われます。
ただその種類は、ひと昔前よりかなり増えており煩雑になってきています。解らないことがあれば、最寄りの保健センター、もしくはかかりつけ医にお尋ねください。
ところで、今話題のメッセンジャーRNAワクチンについて少し説明しておきます。その機序は、ウイルスのタンパク質を作る遺伝情報の一部を注射することによって体内で抗体がつくられ、ウイルスに対する免疫ができます。効果や副作用は様々なメディアで説明されていますが、有効性は非常に高いワクチンであると考えられます。
その研究開発は30年ほど前から始められ、紆余(うよ)曲折を経て完成しました。その研究者は今年のノーベル医学賞候補とも言われていましたが、残念ながら選考されませんでした。ただ、様々な利用方法が研究されており、今後ワクチンのみならず難病や癌の治療などへ活用されていくことでしょう。