奈良県医師会 久保良一
50歳を過ぎると帯状疱疹(ほうしん)の発症が増え、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹になるといわれています。
最近、帯状疱疹がワクチン接種で予防できるようになり、ワクチン接種を勧めるテレビコマーシャルが放映され、帯状疱疹や予防ワクチンに関心が高まってきています。
水痘(すいとう)は、水痘・帯状疱疹ウイルスで引き起こされる発疹(ほっしん)性の感染症で、1~4歳までの子供にかかりやすく、10歳までにほとんどの子供が感染します。
水痘は赤みのある発疹が現れ、ほぼ全身に広がり、痒(かゆ)みをともなう水疱(すいほう=水ぶくれ)となり、そして水疱は時間をかけてかさぶたとなり、約1週間で治癒します。
しかし、水痘が治った後もこのウイルスは体内から消えずに残り、神経節(しんけいせつ)と呼ばれる神経と神経をつなぐ間に潜伏します。日本では成人の90%の方がこの帯状疱疹の原因となるウイルスを神経節に持っていますが、ウイルスに対して、体の免疫力が保たれている時には症状は現れません。
しかしストレス、疲労、老化などや、免疫力を抑える薬を使用し免疫力が低下すると、潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが活動化して、神経に炎症が起こり、帯状疱疹といわれる水疱の集まりが皮膚に現れます。
帯状疱疹は体の左右どちらかに出現します。多くは上半身に生じますが、四肢や頭部、顔、目や耳の周りにも現れ、時に顔面神経麻痺、角膜炎、難聴などを引き起こすため、十分な注意が必要です。
多くは2~4週間で治癒し、皮膚の痛みは改善し消失します。しかし帯状疱疹の痛みの強さ、広がりや、重症度により3ヶ月以上痛みが続く帯状疱疹後神経痛といわれる後遺症が現れます。50歳以上で帯状疱疹を発症した人の約20%に帯状疱疹後神経痛が出現し、中には難治性の強い神経痛に苦しむ方もおられます。
帯状疱疹は発疹が出現してから3日以内に、原則7日間ウイルスの広がりを抑える抗ウイルス薬を投与することで、多くは約2~4週間で治りますが、その後「帯状疱疹後神経痛」が起こらないか注意が必要で、痛みが強い場合には神経ブロック注射も有効です。
さて近年、帯状疱疹にならないために、予防ワクチン接種が勧められ、日本では2種類の予防接種ワクチンが、水痘にかかったことがある50歳以上の方に認められています。
その1つは、以前より小児に接種されていた「乾燥弱毒生水痘ワクチン」で、2016年、帯状疱疹予防ワクチンとして認められました。予防効果は約50%で、5年を経過すると有効性が低下するといわれています。
もう1つは2020年1月に承認発売された世界初のワクチンで、帯状疱疹ウイルスの表面蛋白の一部を抗原とした「組換えサブユニットワクチン」、商品名『シングリックス』です。
予防効果は弱毒生ワクチンより高く、50歳以上が97.2%、70歳以上が89%で、帯状疱疹後神経痛も減少し、予防効果は8年間あるといわれています。
ただ、接種後の注射部局所反応や全身副反応が有意に多く、接種回数も初回と2~6ヶ月後の2回接種が必要で、また費用も自費で高額のため、ハードルが高くなっています。
帯状疱疹にならないためには、加齢は避けられませんが、免疫力が低下しないよう日常生活の体調管理を心がけることが重要です。
帯状疱疹ワクチン接種を希望される方は、ワクチン取り扱い医療機関で予防効果、副反応などを相談したうえで、予防接種をご検討ください。