奈良県医師会 笠原 仁
産業医をしていると、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ感染症)だけにとどまらず、インフルエンザやノロウイルスなど、感染した社員、あるいは感染した疑いのある社員をどう扱えばよいのか、という問い合わせを受けることがよくあります。今回は新型コロナ感染症についてお話しようと思います(令和4年1月10日現在)。
この感染症については、新型コロナ感染症に感染したかどうかによって扱いが大きく変わってきます。感染した場合は、感染症法に基づき「就業制限」という法律的な制限がかかります。そして通常の病気と同じ扱いで、要件を満たせば傷病手当も支給されます。
流れとしては、いずれかの医療機関で新型コロナ感染症と診断され、保健所に届け出られれば、<感染症法第18条第1項及び第2項の規定により就業することで感染症を公衆にまん延させるおそれがあるため、そのおそれがなくなるまでの期間、就業を制限します>という「就業制限通知書」が送られてきます。そして治った時には、請求することにより「就業制限解除通知書」が発行されます。病気なのですから当然、会社に休業補償をする義務はありません。
しかし、濃厚接触者、あるいは濃厚接触者であろう社員の扱いは異なります。保健所が濃厚接触者であるとした人には自治体によりますが、保健所から連絡、もしくは患者自身からの連絡で通知しているようです。そして、PCR検査をして陽性であれば感染者と同じ扱いになるのですが、陰性の場合は一定期間の自宅待機を<お願い>されることになります。
これについては法的な強制力は全くなく、よって形式的には会社が社員に休むよう命じるか、社員が自主的に欠勤するかのいずれかの形になってしまいます。
厚労省のホームページを見ても、現時点では様々な助成金を活用し、休業補償を検討するよう<お願い>する書き方になっています。いろいろな社労士さんのホームページも見ましたが、そこでも休業補償をする義務があるかどうか、ということを含めて見解は割れています。
ただ共通して言えるのは、休業補償を検討したほうが今後の様々な場面でメリットが大きいのでは、という見解が多いように見受けます。すなわち感染者、濃厚接触者が発生してから慌てるのではなく、今のうちからそのようなケースでどのように扱うのかを、必要に応じて就業規則の変更も視野に入れながら検討し、周知しておくことが社員への安心につながるのでは、と思います。
最後に医師としては、保健所からの指示期間は最低限守ったうえで、それ以上の期間を休むか休まないか、ということについては就業制限解除通知にかかわらず、後遺症がある方もいらっしゃいますから、あくまでご本人の体調と相談しながら決めてほしいな、と思います。