奈良県医師会 山下圭造
私たちの体には、病原体の侵入や外傷に備えて自分を守り、元の状態に修復しようとする力(免疫力)が備わっています。体のどこかで異常を感知すると直ちに異常信号が点灯し、その場所に痛み、発熱、腫(は)れを生じる反応を起こします。この反応を「炎症」と呼んでいます。
炎症は、風邪をひいた時やケガをした時、ノドや傷口に誰もが起こしたことがあるでしょう。しかし、心臓や脳など重要臓器に起こった場合は、命に関わる場合があります。
心臓は内部に4つの部屋を持つ筋肉(心筋)の塊で、周りを心膜という袋状の膜に包まれています。心筋に炎症を起こした場合が心筋炎で、心膜に起きると心膜炎、双方が合併する心膜心筋炎を起こすこともあります。
多くの場合、風邪症状(発熱、頭痛、筋肉痛など)や胃腸症状(嘔吐、下痢、食欲不振など)で始まり、続いて数日のうちに心臓の症状が現れます。胸や背中の痛み、息切れ、動悸(どうき)、失神、足のむくみなど、症状の現れ方や強さには個人差があり、突然病状が大きく変化することがあるため、たとえ自覚症状が軽くても入院治療が原則となります。
その後、数日の経過観察で大事に至らずに軽快退院となる方が多いのですが、急に心不全、重症不整脈からショック状態となり、重い心臓機能障害を残したり、亡くなる場合もあります。
原因として、ウイルス感染が最も多く、他の感染症(細菌、寄生虫など)、薬物、放射線、悪性腫瘍、アレルギー、膠原(こうげん)病など多様ですが、最近では新型コロナウイルスに感染した時の合併症として、またワクチンを接種した時の副反応として発病する心筋炎・心膜炎が注目されています。
我が国の心臓病患者数は、約173万人と報告されています。なかでも心筋梗塞や狭心症などの虚血性心臓病は約80万人を占めますが、心筋炎・心膜炎の患者数は年間に約1.5万人と、比較的まれな病気といえるでしょう。
厚生労働省の報告では、日本の新型コロナウイルスの感染者は令和4年1月で約200万人に達しており、心筋炎、心膜炎を合併した人は、感染者100万人あたり1625人、すなわち3250人と推測されます。新型コロナウイルスは、心筋炎・心膜炎を起こしやすいウイルスといえるでしょう。
一方、ワクチン接種後に心筋炎・新膜炎を発症する人が、若い男性を中心に報告されています。しかし、最も多いとされる10〜20才台男性でも、発症率は0.003%以下にとどまっています。
新型コロナウイルスの流行が始まり、はや2年が経過しようとしています。もちろん感染しないことが重要で、そのためにはワクチン接種が有効であり、3回目の接種が始まります。
感染予防のメリットを考えて、多くの人に接種をお勧めしますが、接種から数日以内に胸痛、動悸、息切れ、むくみなどを感じたときには、我慢せずに医療機関にご相談ください。